第11話 薄幸の美少年
「―――しっかり――」
「―――やく!」
熱い、左手は、どうなってしまったんだ?
右手で左手の位置を弄る。何かが巻かれているようだ。
――怪我をしたのか、熱い。ただ熱い。
僕は鑑定と念じながら右手にマナを集める。
拡大した、マナの通り道を映像として頭で直接観る。
左手のマナの通り道はぐちゃぐちゃになっている。
掌から少しずつマナが漏れている。水道の蛇口をしめ切れていないように。
光るマナの通り道が頭の中に浮かんで、でも視界は暗く沈んでいく。
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――親父、本当に長い間、頑張ったな。
――本当ね、お義父さん。お疲れさまでした。
綺麗な言葉で労っている親を俺は冷めた目で見ている。
家ではめちゃくちゃ言ってたのに、俺の生き方が曲がったのは爺さんのせいだと。
お前らに人生の全てを決められたく無かったから、お前らの望む通りにはなれないと言った。
俺の事を知ってか、爺さんは高校の学費を全額だしてくれた。
――好きに生きろ。金は余ってる。お前のために使わせろ。
―――いいよ、家を出て働くさ。
――ダメだ。成績は良いんだ、好きな学校へ行け。
―――きっと、――高じゃないとあいつらはダメだって言う。
――行けないのか、――だったら合格できるだろう。
―――間違いなく入れる。でも…
――いいさ、自分を貫き通せばいい。俺もあの時ああしていればと考える事がある。
―――いいのかな?一人で生きていく覚悟は出来てるつもりだけど。
――ああ、ここから通えばいいさ。俺も夢を貫き切らなかった事は…まぁ心残りではあるな、そのおかげで今があるんだが。ただ、一番賢い生き方を選んだと思っていたが、今になってな…貫いていたらどうなっていたか…
爺さんは似合わない笑顔を向けてくる。
…不器用なその笑顔が好きだった。
父も母も笑いながら爺さんの遺産の行方の事ばかりを話している。
…気色の悪い笑顔で
――お前らは、爺さんの死を喜んで…
クソ野郎どもが。
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右手を握られている感覚がする。この手は…
「アシエ、水が欲しい。」
見なくても、この手の感触は分かる。間違えない。
「よかった!…あと、水です。」
俺はコップを受け取りながら瞼を開けた。
――爺さんの家じゃない、と思った。
…僕はどうしていたんだろう、なにがあった。と思うよりも先に、視界に僕の髪が入る。
眉よりも上にあった前髪は、鼻先まで伸びていた。
見下ろした体はずっと細くて、少しぽっちゃりしていたはずのだったのに。
「坊ちゃまは…」
僕は妹の魔法を受けたみたいだ。ごく稀に魔法の検査前に使ってしまう事があると、
妹が4歳を過ぎたあたりで僕と部屋を離したり、交流が減ったのも暴発を避けるためだった。
危険性について周りは注意していたようだった。
だけど事故は起きてしまった。
そうして僕は眠り続けていた。
覚えはないが時々起きては、食べて、うなされてを繰り返していたらしい。
しっかりと意思疎通ができたのはようやくだと、ずっとこのままなのかとアシエは泣きながら話す。
「ロシエの魔法、僕の体にどういう影響があったの?」
「ロシエ様の魔法は確認は出来ました。ですが、何故ラエル様がこうなっているかは分かりません。魔法自体は毒のような効果を発揮しないとの事でしたが…」
少し傷跡が残った左腕に鑑定をする。
…マナが漏れている。蓋が緩んでいるみたいに。倦怠感と頭痛がしだした。
鑑定は使わない方がいいと思い、マナを流すのを止める。
マナ枯渇になっているのかなと思う。一日の生産量と放出量が釣り合うようになったから意識が戻ったのか?時間が過ぎれば漏れも収まるだろう。そう信じるしかない。
…ロシエはどうしているのかを知りたかった。最後に見た表情を覚えている。
『ヤダァ!にーに!』
…無事な顔を見せてあげたい。
呼んできて欲しいとお願いした時
「ロシエ様の事は分からないです。」
無表情でアシエが静かに言った。
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