第7話 男の子の我慢
本邸の道は覚えている。だから迷わない。だけど、気持ち悪い。
マナ量の多い生き物がたくさん居て、離れているのに気配が分かる。
魔法の検査時は母とウィーネしか大人の女性はいなかったのかと思うほどだ。
いや、そうなのかも知れない。
怖くて足が止まる。…アシエを助けなきゃ。進まないと、そう言い聞かせて。
「?…ラエル様⁉」
「助けて!アシエをお願い!」
聞き覚えのある声に縋る。必死だった。
「…お戻りください。すぐに用意して向かいます。」
僕は全力で走ってアシエの元へ
アシエは眠っていたが、呼吸がおかしかった。
***
別室でウィーネによる看病が始まった。
「大丈夫よアシエは。」
今は姉の言葉が心強かった。
アシエの代わりにメナとブラシェが戻ってきて僕の世話をしてくれている。
眠る時は姉さんが僕と一緒にベットに入ってくれる。アシエのように。
僕は眠れずサークルをする。アシエの魔法陣はマナタイトへは刻めたが、プレゼント用の結晶にするにはまだ自信がなかった。
ただ数をこなす。勝手に姉の魔法陣をサークルする。
僕が思う最高のプレゼントをする為に。
姉はたくさんの習い事があるそうだ。妹も同じで僕だけが何も強制されてない。
誰もいない時は自分の魔法陣をサークルする。
サークルしたマナタイトの出来を調べるためマナを流す。
その時だった。
――パキッ――
…まぶしっ…は?
眩い光と小さな破裂音、強い衝撃が襲った。
「痛いっ…うぇっ…うっ…」
マナタイトが破裂した。結晶の大きさはゴルフボール位だったので、小さくて良かったと感じていた。
結晶の破片が掌や家具に突き刺さっていた。
突然の事で状況の確認など出来ない。
激しい痛みに僕は声を押し殺して泣いた。
声は必死で我慢した。泣きわめけば人が来る。
…アシエが起きてくるかもしれない。それだけは嫌だった。
「やっと終わった。ラエル、今日は…ね…ちょっと!」
習い事を終えた姉が部屋へ戻ってきて大声をだそうとした。僕は飛び掛かって口を押えようとする。
「…大丈…夫、ちょっと割れちゃっただけ。」
「そんな訳な…」「大丈夫…だから…」
「……」
「…ラエル、とりあえず治療するわ。いいわね。」
姉はまったくと言いながら早歩きで部屋を後にした。
少し冷静になって辺りを見まわしたが、破裂した後の惨状は思ったよりも凄かった。
まず、破片の一部が僕の手を貫通していて、後ろにも破片が飛んでいる。顔にも切り傷があり、家具の椅子、机にも刺さっていた。
冷静に観察していたら再び痛みを感じだし、もう一度嗚咽した。
***
「ウェネ様、ご報告は…」
「駄目よ。私が許可しないわ。」
「でもこれは…魔法を使われたのですか?」
「違うわ。転んで割ったのよ。」
「………」
「………」
姉が僕を庇っている。それをメナも分かっている。でも知りたいのだろう、何があったのかを。
何があったかは僕も分かっていない。だけど、破裂したマナタイトは姉の魔法陣が刻まれていた。
そこに僕の魔法陣を追加で刻んでマナを流したら…
――姉の魔法が発動した?それしか考えられない。
検証がいるとは思う…でも試せない。危険すぎる。
だけど、姉の魔法陣が入ったマナタイトならまだある。試すことは…出来る。
――そうじゃない。アシエを心配させないようにしないと。
「――分かりました。」
姉が庇い切ってくれた。僕を見ながら。泣きそうな顔をして。
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