第5話 母は偉大

ウィーネは笑顔で僕から大きく距離を取り先導してくれる。


僕はアシエと手を繋いで歩いていく。強く強く手を握って、離さないように。

玄関を超えて初めて屋敷の外に出た。

出た先は綺麗な庭園になっていた。目的は告げられていない。

気持ちが追い付かない。恐怖が勝っているためだ。


だけど心配はしていないアシエが一緒だから。


遠くには柵があり、屋敷より大きい建物が見える。

恐らく母と姉妹がいる本邸だろう。

敷地がとてつもなく広いどこまで歩くんだ。


見られている気がする。本邸から強く感じるが、誰にも遭遇しない。

庭園に三角系のタイルがあった、アシエの手を離すとそこの上に立たされる。


「マナを全身に漲らせて下さい。良いと言うまでお願いします。」

マナを漲らせるというのは分からないが、サークルでマナの動かし方は理解した。

力いっぱいマナを動かせばいいんだろうと力んでいく。


「坊ちゃま、もういいですよ。お疲れさまです。」


アシエに止められて力を抜いた。

魔法の有無を検査をしていたとの事。終わってすぐにアシエと手を繋いだ。

ウィーネはそのまま本邸へ僕たちを案内し始める。


「バシア様がお待ちしております。」


僕はアシエの手を強く握る、離さないように。




***

カレア・バシア。僕の母であり魔法使い。カレア家の現当主。

屋敷で1度だけ顔を合わせたことがあるが怖くて泣き出してしまった事を思い出した。

あの時に大人の女性が苦手になったんだなと考えていた。


母の部屋に入る前にアシエと別れる。

僕は手を放したくなくて抵抗した。アシエは泣きそうな僕を見てからウィーネに向かって首を横に振っていた。


「ラエル様、ご当主様とお二人でお会いください。」

ウィーネは僕の抵抗を一蹴した。

強制イベントかよ。





そして今、母と対面している。


「…………」

「…………」

ずっと、ほんとにずっと無言の時間が続く。


「…………」

「…………」

泣きそう。今までで一番怖い。母は本当に威圧感が凄くて震える。流石に漏らしはしない…と思いたい。


「………どうだ?」

何が?なんと返せばいいのか分からない。

「…………」


「…っ…うっ…うぅ…」

空気に耐え切れずに僕は声を抑えながら泣いてしまった。


「!…お、お菓子ある。ラエルの好きな甘いやつと、少ししょっぱいやつがある。」

母は背を向けてしゃがみ込んだ、そして転ぶ。お菓子は吹き飛んだ。


「………」

「………」

そして再び無言が続く。


ドアが開き飲み物を持ったウィーネとアシエが来た。

「喉が渇いたと思いまして。片付けは私たちにお任せを。」

何故か現状把握をしている二人の登場に僕は救われた。





「さっきしてもらったのは5歳になると皆が行う検査みたいなもので、ラエルに魔法は確認できなかった。」


「…僕に魔法があったらどうなってたの?」

母と話しながらも目線はアシエの方へ向いていた。


「どうもしない、決まりだよ5歳になった時のな。」





その後は僕が最近何をしているかの話になった。


「坊ちゃまはよくサークルをされています。」


「何の杖を使っている?」


「私が使っていた杖をお渡ししています。」


「どういうやつだ?」


「箱型の中に――」


「――でもそれなら――」


「初めてですし――だと―――」


母とアシエは僕の事を話している。

早く終わって欲しい。そう思いながら視線を他に向けた。

――ウィーネと目が合った。なぜか涙を浮かべている。

訳が分からず恐怖を感じて目を逸らす。それでなくても怖いのに。


「よし!」

母は僕に向かって声を張り上げた。

飲み物を溢しかけた。


「新しい杖…サークルをする魔術具だな。一番いい物をプレゼントしよう。」


「母様!大好きです!」

ウィーネは泣き出した。


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