第4話 ワクワクを返して

アシエにもらった魔術具の杖を使っていた。


絵を書くみたいに結晶に線を刻んでいく。

マナの動かし方で線の太さが変化していく。曲線や直線にもなる。

非常に奥が深い。僕は力の入れ具合でマナも動いているのだと実感した。


「サークル、面白いな!――ッ」

まただ。時々、変な映像を観る事がある。

顕微鏡で血管を見ているような。なにかを拡大した映像が頭に直接流れてくる。




***


「坊ちゃま、お菓子持ってきましたよ。」



僕は5歳になり、アシエは9歳になった。


1か月前に妹と眠る部屋を分けられた。

そして僕の侍女だったメナとブラシェは妹の侍女になった。


正直助かっていた。最近はメナとブラシェを怖く感じていたから。

2人とも10歳になって少し経った辺りから威圧感を感じるようになった。


無意識にだが距離をとってしまう、それに2人も気づいたのだろう。

いつしか苦笑いばかり浮かべ気安く声をかけてくれなくなった。


いつかアシエにも同じ思いを抱いてしまうのだろうか…





「アシエ、結晶が欲しい。」


「サークル用の結晶ならいっぱいありますよ。」


僕がサークルに使用している結晶はマナタイトという。カレア家の領内ではよく採掘できるらしい。


マナを多く含みバッテリーとしての機能を持つため、特定の魔術具に使われていたりと重宝されている様だがマナを使い切ると充填できない。

空になった結晶は使い道がない綺麗なだけのゴミになる。


マナの伝導率は高い為サークル用のいい素材になる。

ゴミの有効利用は環境に優しすぎる。


「ふーん、ならいいや。――ッ!」

また、拡大した血管の様な物が観える。キラキラした何かが流れている。

不思議な感覚で視界はちゃんとある。

ある程度力むと観えてくるため観ている映像の中の線を模写する様にサークルしていく。いい教材だと考えていた。




***


いつも通りアシエが先生となり授業を受けていた。


「――マナ量が多い程強いのです。」


「先生、マナ量が多い者と戦いになったらどうすればいいですか?」


「カレア家は何があろうと坊ちゃまに仇なす者は許しません。ですので、そんな事態にならないですよ。」

超絶過保護を発揮する。つまり僕一人で行動が出来ないって事では…



5歳になったからか少し授業内容が変わった。

外に出たいと訴えたことも関係しているだろう。

外の怖さを教えられる。



「坊ちゃまは大丈夫なので…いいですね。」

非常に畏まって授業を開始した。


この世界での男についてだ。

男性は女性より数が少なくマナ量は女性に及ばないと説明がされていく。

質問をしたかったけど苦い顔で話すアシエを見たくなくて止めた。

アシエは笑った顔が一番似合う。


他の生物について

魔獣と言われる生物がいる。食材や魔術具の元になっていたりするみたいだ。

危険な種が多いが生きている魔物を僕が見ることはないだろうと言う。

僕のサークル用の杖の元になっているのはキラービットという魔物らしい。


そして幻獣種。

不可侵の森という場所で生息している生物を主に幻獣と呼ぶ。

非常に珍しく目撃例も情報も少ない。

希少な為、物語の盛り上げ役で多く登場する。


その中でも代表的なのは竜。

もちろん竜についても情報は少ない。

ただ、僕でも知っている位に竜は凄まじい。情報がないのに噂が独り歩きする位に。

古くより竜という単語は困難や無理を意味する言い回しに使われる。


「竜か…見てみたいな!」


「…竜は天災です。どうしようもありません…遭遇するべきではないんですよ。」




***


映像通りの線をサークル出来た。

間違いなく上達している。そう感じて満足していた。

出来をじっくりと確認していた。

(う…ん?線が…まるで…魔法陣みたいだ。)


なんとなく魔術具を使う要領でマナを流し込んでみた。

魔法陣は少し発光している…マナを流せてる?


分からない現象に僕はワクワクしていた。





(やっぱり、マナを流せる。)

マナタイト結晶にマナは流せない。

だがサークルした魔法陣のような線には間違いなくマナが流せていた。


思いつく限りの魔法陣をサークルしていた。


頭痛がする。吐き気と倦怠感も。

まさかと思った。これがマナ枯渇かと。


でも僕は止まらない。


(結晶の表面にサークルしてもマナは流せない。結晶の中なら流れる。線は細ければ細い方がいいな。安定している線じゃないとダメか。魔法陣の面積は小さい方がいい。やはり、マナは流せても充填は出来ないか…)

検証に夢中だった。


「素敵!初めて見ましたけど、凄い綺麗なデザイン。キラキラ光ってる?」


「…いいでしょ?まだ途中なんだ。」

覗き込んできたアシエに気づかなかなくて、意味もなくごまかしてしまった。

アシエは僕の全てを知っている。何か秘密を持ちたかった。


(魔法陣…綺麗…か…そうか。)



***


明くる日の朝の事


「本日はウィーネ様がこちらに来ます。一緒に本邸に向いましょう。」


その言葉を聞いた僕は憂鬱だ。

屋敷の外に初めて出れるのだが、心の準備は出来ていない。

(なぜ当日に言う!1週間は時間が必要だろ!)


「裏切ったな!」

震える声で吠えた。何故この言葉を言ったのかは自分でも分からない。


「坊ちゃま、アシエの坊ちゃまは余裕ですよね。」

ウィンクしながら可愛い笑顔で言ってきた。

(ずるいなぁ……まぁアシエの僕だしね。)

そう言われると行くしかない。行ける!余裕だわ!





「お迎えに上がりました。」

あの時感じた恐怖がよみがえってきた。動悸がする。逃げたい。


「坊ちゃま…そろそろ行きましょうか…」

僕の顔を覗き込んだアシエはそのまま抱きしめてきた。


「大丈夫。私が側に居ります。」

ごめん僕のアシエ。



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