梅雨(2023/6/2)

 しとしと、ポロポロ、雨が降る。

 通勤ラッシュの車の中で、ラジオが言った。

 ――梅雨入りですね。今日は一日、雨になるでしょう――

 僕は小さくため息をついた。

 まいったな、この時間帯、雨が降ると決まって渋滞しちゃうんだ。


 しとしと、ポロポロ、雨が降る。

 後部座席のチャイルドシートにちょこんと座る、幼い娘が問いかけた。

「梅雨のお空は泣いてるみたい。お空は何か、悲しいの?」


 しとしと、ポロポロ、雨が降る。

 ちっとも動かぬ車の中で、僕はおどけたように答えてみせた。

「どうだろね。お空はもしか、うれしくって泣いてるかもよ。ほら。保育園にあっただろう、最近咲いたピンク色のお花やカエルだち。お空はもしか、『みんな大きくなったなぁ』って泣いてるかもよ」


「うれしくっても、泣いちゃうの?」

 バックミラーに映った娘が、おかしそうに笑っている。

 そういえば、娘は最近「保育園に行きたくない」って泣かなくなったな。


 しとしと、ポロポロ、雨が降る。

 大きくなったな、うれしいよ、と雨が降る。

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