ただ、必死に走る私。何かから逃げるように(2023/5/30)

 店員さんの気の抜けた「いらっしゃいませー」を聞いた時、私は小さく息をのんだ。


 この配置。嫌な予感がする。

 私は瞬きするより早く店内を見回した。


 探し物は、すぐ見つかった。店の奥のATMだ。

 だが、そのすぐ横にあるそれは紛れもなく……。


 私は、ゴクリと唾をのむ。

 これは罠だ。しかも、私を甘く誘惑してくるタイプの厄介なやつ。こんなものをここに配置するとは……。相手は相当の策略家に違いない。

 今月のお小遣い、ピンチなんだけどな……。

 最近、お腹まわりのお肉もつまめるし。


 私は乾いた唇をギュッと結んだ。

 やるべきことは、明白だ。


 他のお客さんのご迷惑にならないギリギリのスピードで、店内を必死に走る。誘惑から逃げ切りATMで用事を片付ける。


 できるか? いや、やるんだ。

 今だ、走れ!


 そして。

 店員さんの間延びした「ありがとうございましたー」を聞いた時、私は長いため息をついた。


 私の右手のレジ袋には、プリンとデサートスプーンと、レシートが入っていた。

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