第4話 選ばせてやる
「あ~あ~。結局、またお風呂に入らないと」
「あ゛?俺と一緒に花火ができて嬉しくないのか?」
「いーえー。とっても嬉しいですよー」
「ふんっ」
疲れていたのだと思う。
仕事が忙しい忙し過ぎてタイムマシンがほしいタイムマシンに乗ってこの繁忙期が終えた未来にひとっとびしたいって言っていたし。
だから、夕食を終えて、時間を置かず食べたデザートのチョコケーキの洋酒漬けの洋ナシで酔っぱらってしまった君は、いきなり手持ち花火がしたいと言い出した。
手持ち花火がないと言うと、スーパーに買いに行くついでにスイカも買おうと言い出したかと思えば、財布をズボンの後ろポケットに押し込んで、酔っ払いとは思えないくらいしっかりとした足取りですたこらさっさと家から出て行ってしまった。
慌てて玄関に置いていた財布と鍵を掴んで君の後を追えば、なんて言う事でしょう。
マンションの目の前の公園で、君はすでに一人で手持ち花火を楽しんでいた。
きっと飛んで近くの二十四時間営業のスーパーに行って、帰って来たのだろう。
幸いだったのは、この公園が花火をしてもよかった事。
これで一緒にお風呂に入れるかもしれない事。
手持ち花火を両手に持ってくるくるくるくる豪快に回る君を、とても珍しくはしゃぐ君を見られた事。
足を止めて少しの時間眺めていた私は駆け走って、君の傍に落ち着いて、手持ち花火をしようとしたけれど。
「あの。一緒に花火がしたくても、もう花火がないのですが」
「あ?なくなったんだ。もう。なくなった………じゃあ次はスイカ早食い競争だな。ほら。俺は気が利くからな。四分の一カットのスイカを買って来た。黄色と赤色。どっちがいい?俺は優しいからな。選ばせてやる」
「え~。花火したかったけど。う~ん。赤色」
「ほら。よーいドン」
「え?ちょ。手渡すと同時に号令って。あ。もう。え?イリュージョンじゃん。食べるの早過ぎ」
「おまえが遅すぎなんだ」
「しかも黄色の部分がない。皮だけ。すごっ」
「スイカ食いに関しては定評があるからな」
「得意満面の笑顔!可愛い!」
「はっはっはっ」
(2024.8.19)
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