第3話 デザートも半分寄こせ
リビングダイニングキッチンの対面式キッチンで、卓上扇風機に当たりながら、三口コンロの内、横に並んである二口コンロを使って、別々の鍋で素麺と冷や麦を茹でた。
君はパッケージに書いてあった時間通りに火を止めて、シンク台に置いたザルに冷や麦を移して水を流したけれど、私は素麺を一本食べてみてまだ硬かったので、もう一分追加して、ちょうどいいやわらかさになったところで火を止め、君と同じようにシンク台に置いたザルに素麺を移して水を流し、氷水が入った皿に入れて、ザルを手早く洗ってフックに吊るし、皿を持ってダイニングテーブルに移動した。
「流石、準備がいいなあ」
ダイニングテーブルにはもう、広げた竹皮に乗せられた十本の焼き鳥、トマトとキュウリと紫蘇のサラダ、取り皿、取り箸、それぞれの箸が用意されていた。
「あれ?」
「冷凍庫にずっとあったから、適当に塩を振って電子レンジで温めた」
「ああ。そう言えば、ずっとあったね。全然開封されてない冷凍枝豆が」
「漸く消化できた」
「何年前に買ったやつだっけ?」
「おまえが買ったのか、俺が買ったのかすら覚えてない」
「えーと。賞味期限を見れば、わかるけど。パッケージは、生ゴミ入れ、じゃなくて、普通のゴミ箱。お、あったあった。あれ。まだ賞味期限内じゃん。最近じゃん。買ったの。うわー。もう十年ぐらい冷凍庫で眠ってると思ったのに。はは。お互い長生きしていると、時間間隔の狂いが著しいねえ」
「冷凍庫に入ってるのは、百年経ってても食べられるからいいんだ」
パッケージをごみ箱に捨て直してキッチンへと移動して手を洗い終わって、またダイニングテーブルに戻った。
私はその間も君と会話を続けていた。
「いやいやいや。百年は無理でしょ。一年だって」
「俺たちは人間より肉体も内臓も頑丈だ。人間の道理に従わなくていい」
「人間社会で暮らしているくせに何言ってんだか」
「あ」
「え?何?」
「おまえと話していたせいで、ちょうどいい硬さだった冷や麦がやわやわになっちまったじゃねえか。どうしてくれる?」
「よし早く食べよう。はいいただきます」
「おい」
「わかったわかった。焼き鳥を一本進ぜよう」
「デザートも半分寄こせ」
「仰せのままに」
(2024.8.18)
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