No.11

「よいしょ、ふゆちゃんちょと手伝って」

「無理。撮ってる」

「おいおい何してんのよ体験入部ー」

「これそんな部活的ノリなやつなの?」

「え?わかんない」

「何なのよもう……はい、ゆづるさんの職場、動物保護施設ほらあなに来てます」

「ひっさびさに車運転しましたー」

「ほんとに怖かった。あ、レンタカー借りましたちなみに」

「いつか欲しいよ自家用車。あ、これせっかくだから使ってよ」

「ああ、持ってきてたの」

「うん、はいカメラ貸して」

「ん」



「うん。なかなかかわいいじゃん」

「でしょ。ちゃんと選んだから」

「嬉しい嬉しい。じゃあ持っといてください」

「はーい。でどれ持ってけばいい?」

「これ全部」

「全部……」

「まあ運べる範囲で。わたし鶴岡つるおかさん呼んでくるから」

「え、ちょ、嘘…………残してかないでよ何処に運べばいいかもわかんないんだから………………はぁ………………………んよっ、おっも!……うっ……………………ゆーづー!」

――はーいはい「はいはいはいごめんよ。ありがと」

「はーおっもい。よくそんな軽々持てる……」

「ほぼ毎日やってますからぁ。あ、ふゆ、この人が鶴岡さん。鶴岡山治やまじさん」

「初めまして鶴岡です。今日はありがとうね」

「あ、初めまして、山並やまなみふゆかです。こちらこそ本日はありがとうございます。急なお願いでしたのに……」

「いいのいいの。ゆづるちゃんのお友達ってんなら大歓迎だよ。人手もあったほうが助かるから」

「ありがとうございます!」

「ゆづるちゃんそれ貰っちゃうよ。後のはよろしくね」

「あ、ありがとうございます!」

「代表に言っておくから、荷物置いたら好きに探検しておいで」

「はーい!」

「…いい人だね」

「でしょ。あの人も犬担当なんだ」

「あ、そうなんだ」

「うん、あ、宿舎こっちね」

「うん、…………古いね」

「あなたのとこの研究棟と比べたら新しい方だと思うよ?」

「それはそう……よいしょっ」

「ようこそー宿舎けだま荘へー」

「名前かわよ」

「でしょ。代表が付けたんだって」

「へー」

「あれ、今日誰がいるんだっけな……代表と鶴岡さんと………あ、安藤あんどうさんもいるかな?」

「わからんて」

「あ、ごめん…―はい、ここが泊まる部屋でーす」

「……きれいな景色」

「でしょ?山全部見渡せるからね」

「インテリアも素敵……代表さんの趣味?」

「だと思うよ。代表の部屋、こんな感じだから。じゃあ、ふゆちゃんのベッドこっちね。わたし奥行くから」

「はーい。なんか久しぶりだね違うベッドで寝るの」

「ね。なんだかんだ一緒に住んでからずっと同じベッドだよね」

「家も別々にする?」

「やだ。新しくベッドおけるスペースないし。てか今更離れたらさみしいし!」

「何だそれ。そんなんで今日寝れる?」

「寝れるもん。今までだって何回か一人でここで寝てるし」

「じゃあいいけど」















「―私、準備できたよ」

「よし、じゃあ探検行こ。最初何処行く?」

「どこでも。でも全部見たい」

「おけ。じゃあ先に犬舎行こう。あ、待って」

「ん?何?」

「えー…………あ!いる!」

「何が?」

「ごめん先にドッグラン行こ!」

「いいけど、どうしたの?」

「紹介したい子がいるの!ほれ早く!」

「え、ちょちょちょちょちょちょ、待って階段!ねえ!」

「いそげいそげ!」

「ねえ、ちょ待って!」

「はやくはやくはやく!あ、安藤さーん!」

「ゆづちゃん!おはよう」

「また後でね!」

「はははっ!はーい」

「ねえゆづ!」

「今の安藤さんね!今日来てるもう一人の犬担当さん!」

「わかったけど、っちょっと足止めて!もう無理!」

「えー……」

「はあッはあっ……っは………ッ殺す気かっ」

「ごめんけど、そんな体力でわんわん散歩できる?」

「やる……はあ……頑張る……」

「ああそう?よし、でも走ったからもうちょっとだよ」

「はぁ…?」

「はい、こっち」

「ん……」




「入ったら鍵閉めてね」

「うん」

――ワフワフッ――

「あっいた!」

「ん?」

「かーえーでー!!」

――ワフッ!――

「わあ……」

「よーしよしよしよし元気だったか?」

「ワフ!」

「かんわいいのー!!」

「ゆづ?この子は?」

「あ、この子かえで!子犬のときにここに保護された子で、ここに来て初めて仲良くなった子なの。今じゃもう相棒だよねー!」

「ワフッ!」

「へー、ゴールデン・レトリーバー?」

「うん。今二歳くらい」

「こんにちはかえで……ちゃん?」

「くんだね。男の子。でもどっちでもいいもんね」

「ワッフ!」

「かわいい……よろしくねかえでくん」

「ワフ!」

「わっ、はは、かわいいね」

「でっしょー」

「ワンっ!」

「キャンキャン!」

「えっ?!」

「おお!カタバミ!どんぐり!」

「カタバミ……どんぐり………??」

「可愛いでしょう?」

「んっ?!」

「今うちにいるワンコたちは、その三匹と犬舎にいる三匹、計六匹よ」

「代表!」

「代表?!」

「初めまして。出迎えられなくてごめんなさい。動物保護施設ほらあな、代表の桑屋くわやです。山並ふゆかさん、よね」

「は、はい!山並です!この度は承諾してくださり、ありがとうございます!」

「あらあらいいのよ。そんなに緊張なさらないで。気楽に、ね」

「はい……」

「ブッフ……ふははっ」

「何笑ってんのよ!」

「だっってふゆかガッチガチじゃん……ふはっ」

「しょうがないでしょ!」

「そうよゆづるさん。誰だって初めは緊張するものでしょう。貴方も、そうだった様に」

「ヴッ……」

「あれー、越智おちさん?」

「えいこっちを見るない……」

「今日はとにかくゆづるさんに教わりながら、ワンコ達と仲良くなれるように頑張って。仲良くなれれば、お世話も楽になるわ」

「はい!あの、記録用に動画を回したいんですが、大丈夫でしょうか……」

「ええ勿論。自由にしてくれて構わないわ。貴方の研究が、実りあるものになることを願ってる」

「ありがとうございます……!」

「ええ。では、私は少し出ます。ゆづるさん、よろしくね」

「はーい」


「……ふゆかさん?」

「すっっっごいいい人……」

「あっ、うん。いい人だよ代表は」

「いい職場に出会ったねゆづ……」

「う……うん…………もう仕事始めていいかね」

「あ、ごめん。うん」

「よし。じゃ犬舎行こ。ほれ行くぞー」

「…おお、みんなついてく……」

「かえでは子犬から居たからね。どんぐりももとは飼い犬だったから。でもカタバミはほぼ野良でね。酷かったみたいだよ。鶴岡さんの腕、カタバミの噛み傷でいっぱいだもん」

「えっ……」

「まあドーベルマンだから完全な野良出身って訳じゃないんだろうけどね。あんまり人好きじゃなかったんだよね」

「そうなんだ……」

「わたしが初めて会ったときにはもう今の感じだったから、いっぱい頑張ったんだろうな、って思ってる」

「うん。そうだよきっと」

「だよね。ねーカタバミ!」

「ワンッ」

「よしよし」











「あ、こら、それぺっしなさい」

「ふふ」







































「さ、ふゆちゃん、こちらへどうぞ」

「どうも。ここが犬舎ですか?」

「そうでございます。君らはまだ遊ぶかい?」

「ワッフ!」

「よーし………行ってこーい!」

「おお…あれ、カタバミはいいの?」


「座った」

「おっけー。足をお出し」

「……入るときは足を拭いて上げる感じ?」

「そそ。いつも散歩監督は帰るときにやってあげる。今の時間は安藤さん。私が監督のときとか、そうじゃなくても帰りたそうにそのへんにいる子見つけたときとかは、ふゆちゃんもやったげてね」

「はいっ」

「……よしおっけー。行っていいよ」


「もっと遊ばなくていいのかな」

「カタバミはいつもこうなんだよ。相棒がいないと」

「相棒?鶴岡さん?」

「ううん。今日は……あれ、体調不良の判断が出てるね。わんわんだよ。カタバミと同じくらいの年だけど、子供の頃からここにいてね。あ、安藤さーんおはよー」

「おはようゆづちゃん。さっきはすごかったね」

「早くかえでに会わせたくて」

「そっかそっか。初めましてふゆかちゃん。安藤香澄かすみです」

「初めまして山並です。先程はすみませんでした。よろしくお願いします」

「いいねーかっこいい。よろしくね」

「安藤さん、片割れどうしたの?」

「ああ、朝ご飯食べなくてね。昨日お風呂入れた後濡れたまま逃げ回ってから、風邪引かせちゃったんじゃないかなーとは思ってるんだけど」

「じゃあ後で病院連れていくかー」

「いいよ?鶴岡さんが連れてくから」

「そうです?じゃあお願いしますー」

「ゆづ……?」

「あ、ごめん。じゃあちょっと様子見に行ってきます」

「はいはーい」

「……大声出さないほうがいいよね」

「そうだね。そんなヒソヒソじゃなくていいけども。……ここから犬の部屋ね」

「あ、カタバミ」

「いい子に待ってたんだねー。今開けるからね」


「お邪魔します……」

「ここにはそれぞれにケージがあって、みんな夜はそこで寝るようにしてるの。かえではあのでっかいの」

「でっか」

「でしょ。でカタバミはそこで、そのとなりが」

「……あ」

「カタバミごめんね。ちょっとだけどいてね」

「……ゥ」

「んふふ、ありがとー。―おはようヒルガオ」

「かわいい……」

「ボーダーコリー。ふゆちゃん前飼ってたんだもんね」

「うん…」

「……」

「元気ないねー、お水も飲めなかったかぁ」

「……」

「うんうん、話したくないよねぇ。じゃあね。―カタバミありがとう。ヒルガオをよろしくね」

「ワン」

「よし、ふゆちゃん出よう」

「、うん」



「かわいいでしょ。あの子」

「うん。女の子なの?」

「男の子だよ。カタバミの先輩で、唯一無二の相棒」

「そうなんだ……」

「あの二匹、どっちか元気ないと、もう片方も元気なくなるの。別行動は基本ないし、あ、さっきは多分ヒルガオに行ってこいって言われたから外出たんだと思う。でもほんとにどうやっても二匹を引き剥がすことはできないんだよ」

「凄いね……でも、譲渡するってなったら……」

「……一緒に引き取ってもらえるようなところを、募集してるんだ。だから離れ離れには、ならない、はず。今はまだ」

「そっか……」

「……よし!ここ以外にもまだいっぱいあるからね!バンバン行くよー!」

「カタバミそのままで良かったの?」

「大丈夫。ヒルガオがいれば悪さしないから」

「そっか。あれ、わんちゃんって全部で六匹なんだよね?」

「うん。あとの二匹は譲渡会に行っているので今日は会えませぬ」

「あ、だから代表が」

「うん。担当者として赴かれました。―はい、談話室兼ダイニングでーす」

「、おしゃれすぎん?」

「基本的にこの敷地にあるものは代表の趣味で構成されてますゆえ。えー、人間のご飯はここで振る舞われます。朝礼とかもここ。暇になる時間とかはここでくつろいでてもいいかも」

「そんな時間あるの……?」

「あるよ結構。わたしはワンコたちと遊びに行っちゃうけど」

「へえ」

「わたし達が使うのはこのくらいかな。で、この扉のむこうは猫舎の範囲にはいるんだけど、ごめんけど多分入れないと思う。わたしも今までやってて入ったこと無いから」

「そっか」

「でも、猫の担当さんもここに来てご飯とか食べてるから、話だけなら聞けるよ」

「あ、それなら助かる」

「ういうい。じゃあ案内は以上です!ホントは倉庫もあるけどちょっと省略さしてもろて。今が…九時ちょっとか。もう朝礼もろもろは終わってるので、一旦自由です!」

「え、もう?」

「うん。でも実は今日一大イベントを任されてるので…そうだな……十時にもっかいここ集合!」

「へ、はい」

「―じゃあわたしかえでとどんぐりのとこ行ってくるから、自由にしてね!」

「え、ゆづ……」

「……もしあれだったら、カタバミとヒルガオのとこ、行ってみたら?」

「あ……うん。そうする」

「おけ。じゃ!」













































「こんにちは……カタバミくん、お邪魔してごめんね。山並ふゆかです。さっきはうるさくしてごめんね……」

「………ワ」

「よろしくね……ヒルガオくん、初めまして。山並です。早く元気になってね」

「……」

「あ、ごめん、起こしちゃった……」

「ワンッ!ワン!」

「え、ど、どうしよ。いやどうもできない…」

「ワンッ!」

「……ㇰフ」

「……仲いいんだね、ほんとに…………てか、具合悪いのに知らないの居たらストレスだよね。お邪魔しましたッ――、カタバミくん?…………………ここにいていいの?」

「ゥゥ……」

「………………じゃあ、お言葉に、甘えて………ごめんねヒルガオくん…………」

「……」

「あ、寝てる…………………………………」


























「不思議だなぁ………………………………」

















――

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