第一話⑤
そんな騒がしい道中も、あっという間に目的地だ。大鳥居の前に、残りの二人の姿を見つけて思わず声をかける。
「きょーちゃん!こはくおにいさま!」
数歩先で高校生くらいの琥珀お兄様と、恭ちゃんが手を振っている。
高校生程度の青年は、【卯ノ花 琥珀】。私たちのリーダーのような存在だ。一人だけ年が離れているため、何かと頼りになるお兄様。物腰柔らかく、頭もいい上に運動もできる。身体が弱いのがたまにキズなくらい。
その陰に隠れるように手を振ってくれているのが【黄蘗 恭也】。ゲームでいうところの後輩キャラというやつだ。私と二つ違いのお兄さん。だけど、幼馴染の中だと年が下なので、なにかと振り回されがちである。まあそれはまた追々。
「随分早く着いたね。遥くんが連れてきてくれたのかな。」
「俺は円のホゴシャだから。ちゃんと今日のご挨拶も見届けるんだ。」
「それは結構。円さんも準備はよいですか。」
「…もちろん…。」
「安心して円ちゃん!すぐ終わるよ。僕のときもそうだったし。」
「…ありがときょーちゃん…。」
とりあえず、全員私が緊張していると思ってくれたようだ。それならばそのまま今日のところは通してしまって、その後のことはまた考えることにしよう。自分の死が神頼みになってしまうことに変わりはないわけだし。
「…そろったようですね。」
石階段から、かつり、かつり、と音がする。その場の空気だけが、静かに、整う気配がした。全身がひりひりとする。ゆっくり顔をそちらに向けると、神社の責任者である、大巫女様がこちらへ降りてくるところだった。
「巫女様、おはようございます。」
さっと遥お兄様が前に立って挨拶をする。それに合わせて小さく頭を下げると、ふわりと空気が和らいだ。そろりとのぞき込むと、大巫女様が微笑んでいる。
「そう硬くならないでちょうだいな。今日はただのご挨拶。その気持ちでおいでなさい。」
「…はい・・・。」
「神様は怖い人ではないのよ。…少し、さびしがりやなだけ。さ、お客様もたくさんいるご挨拶になりそうだけれど、早いところ済ませておやつの時間にしましょう。」
わあ、と声をあげるほかの子どもたちを目で追いながらため息をつく。不安だ。すぐ目の前に、多くの人が眠る湖があるというのもあるが、儀式じみたものが自分にできるとは思えない。とりあえずじっと座っておけばいいらしいが、大丈夫だろうか。
大巫女様が笑う。
「大丈夫、大丈夫。なにもなければ、座っているだけでいいのよ。」
…何かあるときの言い方なんだよなあ!
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