第10話 『勇者』との遭遇

 快斗とケープは、この世界のことを知るために行動を開始した。


 途中でなんども魔獣に遭遇したが、ケープの操る怨念と快斗の扱う魔術でどうにか切り抜けてきた。

 そんな中、ケープは快斗の魔術の危険性について語った。


「快斗ちゃんの魔術って、魔力を散らしすぎな気がするんだよね」


 快斗の放つ魔術は炎の玉。形を変え、属性を変え、どうにか多種類に及ばせようとしているがうまくいっていない。


 その時新たにぶつかった壁が、魔力の効率が悪いということ。


「具体的にどうしたらいいんだ?」


「イメージ力ってことしか私は分からないなぁ。魔術を放つために、魔力を無理矢理押し出してる感があるんだよ」


 魔力を消費して魔術を形成する。その為に魔力が吹き出す場所がある。快斗の場合、今は手のひらだ。


 魔術を出すための魔力を出口に似合わない量ぶつけているせいで、魔力の消費が多くなってしまう。


 なので魔力を探知できる魔獣には気づかれるし、単純に効率が悪いので疲れやすくなる。


「魔術を出す時に焦りすぎなのかもね。落ち着いて必要分だけ出せるようになればいいんだよ。同じ魔術でも、熟練者と初心者じゃ消費魔力量も違うし、練習あるのみ!」


 迷走中の相棒に、ケープは優しい言葉で励ましてくれた。とはいえケープは理屈はわかっていても、彼女自身がその達人というわけではないため、練習は二人で行っていた。


 何度か太陽と月が空の番を交代して、少しずつ快斗の魔術の練度も上がっていった。本当に少しづつだったが。


「やっばい!快斗ちゃんへるぷみー!」


「走り回るな!エイム終わってんだ俺は!」


 魔獣を引き付けながら怨念の手助けを受けつつ駆け抜けるケープ。


 彼女は今、快斗が初めて殺した狼と同種の魔獣に追われている。


 この魔獣は鼻が利くようで、魔力に対して敏感に反応する。快斗の魔術の練習には、必ずと言っていいほどこの魔獣の邪魔が入る。


「今から跳ぶよ!跳ぶ跳ぶ、わひゃあ!」


 怨念が形を作り上げ、巨大な腕が地面から生えのび、ケープを掴んで空へ投げあげた。その着地点には魔術を構えた快斗がいる。


「落ち着いてね!」


「………言われずとも」


 少ない魔力でどうにか魔術を形成する。そのためのイメージは何度もやっているのに、未だに少し慣れない。


「秀才が、聞いて呆れるな!」


 自らに評したその称号に悪態をついて、快斗は今までで一番洗練された魔術を放った。


 速度、威力ともに最高潮。身軽でかつ素早い狼達の横っ面に、放たれた紫色の炎の塊が直撃。地面を大きく抉る魔術が炸裂した。

 獲物を狩る気満々だった狩人達を一瞬にして葬るのには十分な代物だった。


「あとは、後始末!」


「私の着地を後始末って言わないで!」


 魔術の完成を喜ぶ暇もなく、落ちてくるケープを快斗が受け止めた。

 超集中の魔術鍛錬に一区切りついて、快斗は疲れをため息を乗せて吐き出した。


 受け止めてもらったケープが、地面に寝っ転がりながら快斗を見上げて笑った。


「やったじゃん!快斗ちゃんの魔術最高!」


「あぁ……ありがとう」


 健気に魔術の練習に付き合ってくれたケープは、快斗本人よりもこの功績を喜んだ。


~~~~~~~~~~~~~~~


「あとは色んな魔術に発展させていけたらいいね」


「それが中々上手くいかないんだよな」


 荒野に沈みゆくオレンジ色の太陽を背に、快斗とケープは歩いている。


 疲れるとはいえ魔力が回復すれば悪魔は限界がない。それゆえに快斗とケープは人間では到底できないハードスケジュールで動いている。


 寝ないで過ごした夜は、これで十三度目だ。


「快斗ちゃんはゼロから思いつくのは無理でも、見たらいくらでも再現できる。だから色んなものを見て参考にしていけたら、最強になるんじゃない?」


「だったらいいんだが、未だに見てんのは魔獣と太陽と月だけだしなぁ」


 最高にできる目新しいものは特にない。まだ挑戦していないものと言えば、ケープの操る怨念くらいだが。


「私の怨念だったら、別に悪魔ならある程度操れると思うよ?」


「え、そうなの?」


「うん。悪魔って怨念とか恨み辛みを取り込んだり与えたりするのが本来の力だからさ。みんな私がやってる事できるんだよ。私はそれがちょっとみんなより得意だったってだけ」


 あまりいい思い出はないのか、ケープは少し俯きながらそう呟いた。仄暗い雰囲気を纏う彼女を、快斗は前にも見た事がある気がした。


 得意なものが皆にできることであったというだけで、使えない人材というレッテルを貼られ、あまり周りに尊重されなかった。


 同じ質の才能も、種類が違うだけで重宝されなかった。そんな現実に、悲しさを抱いた顔を、ケープはしていた。


 この世界に来てからではない。もっともっと、ずっと前から、その顔を知っていた──


「もしかしたら、あれは──」


 脳裏に過ぎった考え、それを快斗が口にしようとしたその時、ケープが突然快斗の前に手を出して制した。


 なぜその行為をされたのか分からなかった快斗へ、振り向かないままケープが一言告げた。


「危ないから下がって」


 地面から生えのびた怨念数々が、快斗を後ろへ引き下げる。代わりにケープは前へ踏み出し、従えた怨念達を周りへ集めた。


 ケープが睨む先、そちらは太陽が沈んでいく方向とは真逆で、暗闇が地面を覆い始めていた。


 やがて月が顔を出し始めた頃、一人の青年が姿を現した。


「あぁ、ようやく見つけた」


 疲れた雰囲気を纏う彼は、しかし全く疲れていない様子でそう言った。


 白髪に白い瞳。白い制服に、腰にこさえた白い剣。全身真っ白の青年は、恐ろしくも美しい風貌だった。


「初めまして、悪魔さん達。僕は『勇者』、リアン・サヴェージ。よろしくね」


 礼儀正しくお辞儀して、不気味な青年は二人へ微笑んだ。

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