第9話 盗む価値のない宝
応接室の中に入ると、その豪華さに思わず目を見張った。きらびやかな装飾、広々とした空間、どこまでも続くかのような大きな窓……これが王宮かぁ。
絨毯のフカフカな感触を感じながら、部屋中を見渡していると「あまりキョロキョロするな」とオーランドさんに諭されてしまった。
その落ち着き払った態度に、少しカチンときたが、反論する前に、応接室の扉が開き、やや慌てた様子のアイリス様が現れた。
「やっぱり! エリナさん!」
「え!? アイリス様!? そっか、アイリス様が御口添えして下さったんですね。まさか本当にお会いできるなんて」
さすがアイリス様。気づいて貰えなければ、私達はあのまま牢獄行きだったかと思うと、寒気がする。
結果的に手っ取り早かったとはいえ、一か八かの作戦にしてはムチャが過ぎる。黙ってオーランドさんを睨みつけた。
「え、何のことですか? 私の方こそ驚きましたよ。偉い大臣が慌てて『大変なお客様が来ているからすぐに会いに行くように』って言い出すんですもの」
「……大変なお客様?」
どうにも話が噛み合わない。
「きっと、騎士団のエリナさんがいらしているので、私が何かしでかしたんじゃないかって心配されたんじゃないかしら」
アイリス様はくすくすと可愛らしく笑ってみせる。
「そ、そんな。アイリス様が悪いことするはずなんて……!」
慌てて弁明しようとする私に、アイリス様は優しく微笑んでくれた。その姿を見て、私がようやく胸を撫で降ろすと、アイリス様はふと黙ったままのオーランドさんに目を向ける。
「あの、初めまして、ですよね? 第五王女のアイリスです。お名前をお伺いしても?」
「街外れで道具屋を営んでいるオーランドという者だ」
オーランドさんのぶっきらぼうな返答に、思わずぎょっとした。こんなに丁寧に応対をしてくれたアイリス様に、何て無礼な態度を――!
慌ててオーランドさんに注意しようとしたけれど、アイリス様は全く気に留めない様子で話を続ている。
「道具屋さん……ですか? ごめんなさい、城下の事はあまり詳しくなくて。でも、エリナさんと一緒にお越し頂いたということは、事件について調べてくださっているのですね?」
「あぁ」
簡単に答えるオーランドさんに、アイリス様は静かに頷く。
「ありがとうございます。私にできることがあれば、どうぞ仰ってください」
そう言って大きなソファに座り、姿勢を正して話を聞く準備を整えたアイリス様に「では」と前置きしてオーランドさんが質問を始めた。
「盗まれたブローチについて聞きたい。あれは、どれほどの価値があるものだ?」
「ちょっと! 失礼ですよ! 国宝ですよ、そんなの値段がつけられるわけ――」
私が反論しようとすると、アイリス様が静かにそれを制した。
「ごめんなさい、エリナさん。実は、あのブローチ自体にはそれほど価値があるわけではないんです」
「え?」
思わず驚き、アイリス様に目を向ける。
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