第5話 破滅の件
そんなある日、僕が六才でカナデちゃんが三才の時にとても大きな問題が領地を襲ったんだ……
「カーロン、お前に後の事を託すぞ…… 父は恐らくは生きては戻れまい…… 母と
「父上! ダメです! 僕も一緒に!?」
「ならぬっ!! まだ六才のカナタに全てを背負わすつもりか! お前は嫡男としてこれまで培ってきた全てを私亡き後に発揮するのだっ!!」
父上と兄上がこう言ってるのも無理は無いんだ。うちとカナデちゃんのラーメール子爵家は領地が隣同士なんだけど、そのラーメール子爵家に向かう街道によりによって【破滅竜】が居座ったらしいんだよ。
【破滅竜】って言うのは僕が産まれる百年も前から勢力を拡大してる新興宗教の【猛虎教】の伝説で、全ての人々を破滅に導くと説かれている竜なんだ。
王国は【愛と創造教】が国教なんだけど、庶民や又は貴族にも【猛虎教】の信者になった人たちが多くいて、国王陛下も頭を悩ませているんだとか……
【愛と創造教】にはそんな伝説は無いからね。で、何で居座った竜が【破滅竜】なんだと分かったかって言うと、【猛虎教】の教えで、
一つ【破滅竜】は訳の分からない言語で語りかけてきて、旅人を通せんぼする。
一つ【破滅竜】は攻撃はしてこないが、こちらの攻撃は何一つ通用しない。
一つ【破滅竜】は突然にわけの分からない物を創り出す。
一つ【破滅竜】はその創り出した物を人に渡そうとしてくる。
って事らしいんだけど、居座ってる竜がこの教えと全く同じ行動をとっているから【破滅竜】だって分かったんだ。
「父上、母上、兄上、姉上、僕が行きます」
僕は五才になって授けの儀を受けた際に技能【生活魔法(全)】【言語完全理解】を授かったとみんなには言ってある。それと付与魔法も授かってるのも打ち明けているよ。【超絶】がついてるのは言ってないけどね。
「僕なら【破滅竜】が何を言っているのか分かる筈です」
けれどもまだ六才の僕に行かせるような両親や
「バカな事を言うなっ! カナタ! お前をそんな危険に晒す訳ないだろう!!」
「ダメよ! カナタ! カナデちゃんはどうするのっ!?」
「カナタ! 僕が行くからカナタは家で母上とミーチェ、カナデを守るんだ!」
「カナくん! 行っちゃダメだよ!」
父上、母上、兄上、姉上にそう言って止められる僕。僕は横にいるカナデちゃんを見た。
「カナタお兄ちゃんが行くならカナデも行く〜」
うん、安定の天使の笑顔だよ、カナデちゃん。
「なっ!? ダメよ。カナデ!
母上が取り乱してる。けど、僕はそこでみんなを説得する為に話し始めたんだ。
「父上、母上、兄上、姉上、落ち着いて下さい。僕が今から言う事をよく聞いて考えて頂きたいのです。父上、破滅竜というのは猛虎教が言ってることで、愛と創造教では竜については何も神託は出ておりませんよね? それと猛虎教が言うには攻撃をしてこないとも…… そして、何かわけの分からないモノを創り出して人に渡そうとするだけとも言ってます。ならば僕が行って竜の言葉を理解すれば良いだけじゃないでしょうか? 対話をすれば本当はどのような竜なのか分かると思うのです。それに僕からしてみれば猛虎教は胡散臭く感じられます……」
一気にここまで語ると父上たちは考え込み……
そして、
「ウム。カナタのいう事にも一理あるな」
と父上が発言をしたら、母上も
「それならあなた、領民の為ですもの。家族全員で破滅竜に会いに行ってみましょう!」
と鶴の一声を出されたんだ。それには兄上や姉上まで、
「分かりました、母上! ならばセバスよ、馬車の用意を!」
「やった! 母様、ピクニックですね!!」
とやたらと張り切り父上も今さらダメだとは言えない雰囲気になっちゃったんだよ。
「カナタお兄ちゃん、楽しみだねぇ〜」
カナデちゃんも天使な笑顔を浮かべて本当に楽しそうだ。良かった、楽しそうで。
「厶、ムッ…… よ、良いか、遊びではないからな! 私の言うことを聞いて騒がないようにな」
「メリー、バスケットにサンドイッチを用意しておいてちょうだい。お茶も忘れずにね。ほら、カナタが付与してくれた魔法瓶があるじゃない。ホット用とアイス用のやつ。アレに用意するのよ」
「はい、直ぐに準備致します、奥様!」
メリーさんは母上付きの侍女兼護衛で、戦闘侍女という職の人なんだ。剣を使わせたら父上には負けるけれどもうちの騎士団長と互角なんだよ。
「旦那様、馬車の用意は整いました。私めも非力ながらご一緒させていただきます」
セバスさんは我が家の筆頭執事で、実は父上よりも強いんだ。父上の剣術を鍛え上げたのもセバスさんらしいよ。
「セバス…… 済まぬがよろしく頼む。家族を守ってくれ」
悲痛な表情で父上がそう言うけど、僕は大丈夫だと思うんだけどなぁ。だって猛虎教の教えにはどこにも人を襲うとは書かれてないし、コレまでの伝承を集めて精査したけど、破滅竜は誰も何も受け取ってくれないと分かると何処かに飛んで行ってしまうらしいから。
言葉が通じさえすればきっとわかり合えると思ってるんだ。
それに、破滅竜が現れた場所で破滅したなんて話が一つも出てきてないのが一番の理由かな。
僕としては竜が手渡そうとする物に興味津々なんだよ。
準備が整い馬車に乗り込んだ僕たち。この馬車は僕の超絶付与魔法を使用してる。宝石であるルビーを使用して中を二倍に広げてあるから父上、母上、兄上、姉上、僕、カナデちゃんにセバスさん、メリーさんが乗ってもまだまだ余裕があるんだ。
「えへへ〜、馬車楽しいね、カナタお兄ちゃん」
カナデちゃんの笑顔が見れて僕も楽しいよ。
「良いか、カナタ。危ないと私が判断したならば直ぐに退避させるからな」
父上はそう言うけれども、僕はそんなに心配はしてないんだ。
「伯父様、だいじょうぶだよ。竜さんはとっても良い竜さんなの」
カナデちゃんがこう言って保証してくれてるからね。
「いや、しかしだな、カナデ。まだ会った事も無いのだから……」
「えへへ〜、だいじょうぶだよ〜」
父上もカナデちゃんの笑顔には弱い。まあ、父上は母上と姉上の笑顔にも弱いんだけど。兄上も僕も同じだけどね……
「ムッ、ムッ、そ、そうか。カナデがそう言うのならば……」
「カナちゃん、どうして悪い竜さんじゃないって分かるの?」
姉上がカナデちゃんに聞いている。
「えっとねぇ、ミーチェお姉ちゃん。カナデの夢にヴェーナース様がきてね〜、それで教えてくれたの!」
「何とっ!!
愛と創造教では夢にヴェーナース様が現れる子はヴェーナース様の
何でも神託で私の
それにしても僕の
「旦那様、竜が見えました。停まります」
御者をしてくれてるトマスさんが言って馬車を道の端に寄せて停めた。竜までは凡そ三十メートル。竜は馬車を降りた僕たちをジッと見ている。
その瞳には知性の輝きが見える。父上とセバスさんを先頭に僕たちは竜に近づいていったんだ。
僕の言語完全理解が仕事を始めたよ。
「ハア〜、また来たけど、どうせまた有無を言わさず攻撃されるんだろうなぁ…… こんなに良い物を上げようって思ってるのに、どうして人は分かってくれないんだろう? 僕が何かしたかな〜……」
やっぱり、破滅竜じゃないよね!!
僕は父上とセバスさんを追い越して、体長凡そ十五メートル、体高六メートルの竜に近づいて言ったんだ。
「どんな良いものをくれるんですか?」
ってね。竜が目を点にしたのは見ものだったよ!
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