第6話 こころ先輩といっしょにシャワー、からのシャンプータイム

「……ふぅ」


「それでは今日の部活動はこれで終了です。お疲れさまでした」


「着替えに参りましょうか」


「……えっ」


「男子更衣室のシャワーの調子が悪い、ですか?」


「水が出たり出なかったりする? ……そうですか」


「そういえば、昼に水泳の授業が行われたとき」


「男子用のシャワーのカランに、生徒のひとりが転んでぶつかって」


「調子が悪くなったかも、と顧問の先生が言っておりました」


「……ええ、我が部には顧問の先生がちゃんといるのですよ。いちおう、ですが」


「それはともかく、シャワーが出ないのは困りものですね」


「ならば、いかがでしょう。女子更衣室のシャワーを使いますか?」


(がたっ)


「そんなに驚いた顔をされずとも」


「わたしとあなたの二人きりなので、問題はないでしょう」


「……他の部員がいたら、さすがにこれは許可しませんが」


「わたしとあなた、だけですから」


「ではふたりで更衣室に参りましょう」


(キュッキュッキュッ、と足音)


「女子更衣室のシャワーを浴びるのは初めてですか?」


「そうですか。これもあなたの初めてなのですね」


「でしたら、このわたしが」


「使い方を」


「教えてさしあげます」


(ぎぃ、ばたん)


(キュッ、キュッ)


(シャワアアァァァ、ばしゃばしゃばしゃ)


「どうですか、女子更衣室のシャワーの使い心地は」


「男子のそれと変わらない? そうですか」


「わたしも、男子更衣室に入ったことがないので」


「男子側の使い心地は分かりませんが」


「……わたしも、シャワーを浴びたくなってきました」


「隣をお借りしますね」


(シャワアァァァ、ばしゃばしゃばしゃ……)(以下、しばらくシャワー音が続く)


「はぁ……」(至近距離)


「気持ちいいですね」(至近距離)


「少しあったかいのが、逆に心地よいです」(至近距離)


「……男性はいいですね。上半身が裸で」(至近距離)


「水着のまま、シャワーを浴びても、胸やお腹がちゃんときれいになります」(至近距離)


「女子はそうはいきませんので」(至近距離)


「水着の中に胸を守るためのパッドが入っているので、なおのこと、そう思います」(至近距離)


「……パッド? ええ、入っておりますよ」(至近距離)


「胸を大きく見せるためではなく、守るためのものです」(至近距離)


「本来、競泳用の水着にはパッドがついておりません。水泳連盟などの規定でパッドが認められていないため、だそうです」(至近距離)


「ですが、学校の授業なり、あるいはわたしたちのような小さな水泳部では、その決まりを守る必要はあまりないと思いますので」(至近距離)


「わたしは水着の中に、パッドを入れています」(至近距離)


「別売のものを入れたので、ときどきズレが生じますが」(至近距離)


「ご覧になりますか? 女子用の水着の中は、このようになっています」(至近距離)


(ばしゃばしゃばしゃ!)


「どうされましたか? そんなに顔を赤くされて」(少し声が離れる)


「シャワーのお湯はぬるま湯のはずですが、熱かったでしょうか」


「……そういえば、あなたの髪を拝見したところ」


「少々、痛んでおられるようですね」


「水泳のあとに、髪の毛をケアしておりますか?」


「していない。それはあまり、推奨できません」


「水泳のあとは塩素で髪が傷んでいますので」


「ヘアケア用のシャンプーで洗髪し、トリートメントを使うとよいのです」


「ちょうどここに、わたしが普段使用しているシャンプーとトリートメントがございますので」


「洗髪、いたしましょうか」


「……はい、ではここに椅子がありますので」


「おかけになってください」


(がたっ)


(きゅっ)(シャワー音、終わる)


「ところで、つかぬ事をお伺いしますが」(至近距離)


「家族以外の女性に髪の毛を洗ってもらったことは、ございますか?」(至近距離)


「……ない。……床屋や美容院でも、ありませんか」(至近距離)


「では、わたしが初めてなのですね」(至近距離)


「……そうですか」(至近距離)


「それでは、わたしが」(超至近距離)


「教えてさしあげます」(超至近距離)


(きゅっきゅっ、とこころが歩く音)(こころ、主人公の真後ろに立つ)


「それではシャンプーを始めますね」(超至近距離・後ろから)


(かたん。……しゃか、しゃか、しゃか……)


「わたしも、人様の髪を洗うのは」(超至近距離)


「……初めて、ですので」(超至近距離)


「まして男性の方の髪となると、触ったこともありませんので」(超至近距離)


「至らない点があるかもしれませんが」(超至近距離)


(しゃか、しゃか、しゃか……)


「そこは……どうか、ご容赦くださいね」(超至近距離)


(しゃか、しゃか、しゃか……)


「……ええと……こういうときは……」(超至近距離)


「かゆいところは、ございませんか?」(超至近距離)


「……大丈夫ですか? それでは続けますね」(超至近距離)


(しゃかしゃかしゃか、しゃかしゃかしゃか、しゃかしゃかしゃか……)


「……もう少し……」(超至近距離)


(しゃかしゃかしゃか、しゃかしゃかしゃか、しゃかしゃかしゃか……)


「はい」(少し離れて)


「できました」


「では、シャワーで流します。目はつぶったままでお願いしますね」


(ざぁぁ……ざばば……)


(ごぼごぼごぼ)(排水口にお湯が流れていく音)


(きゅっ)(シャワーが閉められる音)


「……次はトリートメントです」


「良い匂いがいたしますよ」


(ちゅるるる、にゅる)(トリートメントが出る音)


「こちらを、髪の毛全体にまんべんなく」


「ぬりぬりぬり、です」(至近距離)


(にゅるにゅる、しゃかしゃか)


「ぬりぬりぬり……」(至近距離)


(にゅるにゅる、しゃかしゃか)


「……ふぅ……」(至近距離)


「……顔が本当にお赤いですよ。のぼせましたか?」


「大丈夫ですか。……そうだ、でしたら……」


(ふぁさっ、ばさっ……さっ、さっ……)


「いま、床の上にバスタオルを敷きました」


「その上に、わたしが正座いたしますので」


「ひざまくらで、トリートメントの続きをいたしましょう」


「大丈夫ですよ。タオルを敷いているので、わたしの足は痛くありません」


「ありがとうございます。気遣っていただいて」


「……では、どうぞ」


「わたしの、ふとももの上に、頭を」


(がささ……)


「はい。では、続きを……」


「力を抜いてくださいね」


(にゅるにゅる、しゃかしゃか……)


(にゅるにゅる、しゃかしゃか……)


(……とくん、とくん……)


「……気持ちいいですか?」(超至近距離)


「……心臓の音が聞こえる?」(超至近距離)


「それは、あなたの顔のすぐ上にわたしの胸があるからだと思います」(超至近距離)


(とくん、とくん)


「背泳ぎの指導を思い出しますね」(超至近距離)


「では……続けますね……」(超至近距離)


(にゅるにゅる、しゃかしゃか)


(にゅるにゅる……)


(しゃかしゃか……)


(とくん、とくん……)


「ふぅ……」(超至近距離)


(にゅるにゅる、しゃかしゃか)


(にゅるにゅる……)


(しゃかしゃか……)


(とくん、とくん……)


「はぁ……」(超至近距離)


(にゅるにゅる、しゃかしゃか)


(にゅるにゅる……)


(しゃかしゃか……)


(とくん、とくん……)


(……とくん……)


「……はい」


「これでおしまいです」


「では、トリートメントを流しますね」


(しゃわぁぁぁ、ざざああぁ、ごぽぽぽ……)


「はい、これで出来上がりました」


「髪の毛のツヤが、少し増した気がしますよ」


「でも髪のお手入れは一日にしてならずですので」


「毎日、プール上がりと、自宅のお風呂でも行ってくださいね」


「どうですか。次回からは自分で行えそうですか?」


「大変ということならば、わたしが次からも」


「教えてさしあげます」(至近距離)


(ぴちゃん)(シャワールームにしずくが落ちた音)


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