第5話 こころ先輩の南国再現耳元ふ~ふ~

(チャイムが鳴り響く音)


(1秒間が空いて、ざばっ、ざばっと泳ぐ音)


「ぷはっ」


「はぁ、はぁ……」(至近距離)


「今日はずいぶんと泳ぎましたね」(少し離れて)


「あなたの泳ぐ速度、早くなったと思いますよ」


「本当です」


「少しずつ、筋肉もついてきたのではないですか?」


「たくましくなられた、気がします」


「特にこの、胸元のあたりが、こう」(至近距離)


(ちゃぷん)


「素敵です」(至近距離)


「……さて、そろそろ休憩いたしましょう」(少し距離を取って)


「どのようにして休みましょうか」


「シャワーを浴びますか?」


「プールサイドに参りましょうか?」


「ここがホテルのプールならば、プールサイドのベッドで横になっているだけで休息となるのですが……」


「はい、南国のホテルです。太陽の光を浴びながら、南国の風をその身に受けるのです」


「それはとても心地よいものなのですが」


「しかしここは学校の室内プールなので、もちろんベッドなどは……」


「あ」


「そういえば」


「ベッドではありませんが」


「少々お待ちください」


(ざばん)


(たったったっ)(こころがプールから上がって、プールサイドを歩く音)


(1秒後、たったったっ、とこころが戻ってくる音)


「ご覧ください。イカダ型の浮き輪です」


「この浮き輪をプールに浮かべ、その上で仰向けになると、非常にリラックスできます」


「ぜひ一度、お試しになってください」


(ちゃぷ、ちゃぷ)


(ぎしっ)


(ちゃぷん)


「イカダの上に乗りましたね」


「サイズもちょうどいいですね。ぴったりです」


(ちゃぷん、ちゃぷん)


「いかがでしょうか。横になったまま、水の音が聞こえてくるのは」


(ちゃぷん、ちゃぷん……)


「目をつぶって、水に揺られるのです」


「力を抜いて、音だけを聴いて」


(ちゃぷ、ちゃぷ)


「本来ならば、このあたりで風が吹いてくるといいのですが」


「ここは室内ですので、さすがに風は……」


「……ひらめきました」


「わたしが、吐息で、南国の風を再現するのはいかがでしょう」


「このように……」


「ふ~っ」(超至近距離)


「ふぅ~っ……」(超至近距離)


「いかがですか」(少し離れて)


「風を受けている気分に、なりますか?」


「……あなたは……このようにして、風のような吐息を耳に受けたことがありますか?」


「初めて、ですか? ……それならば、よかった」


「それでは、わたしが」(至近距離)


「教えてさしあげます」(超至近距離)


「ふ~っ……」(超至近距離)


(ちゃぷ、ちゃぷ……)


「ふぅ~っ……」(超至近距離)


(ちゃぷ、ちゃぷ……)


「ふ~ぅ……」(超至近距離)


(ちゃぷっ、ちゃぷん)


「ふ~ぅ……ふぅ……」(超至近距離)


(ちゃぷ、ちゃぷん……)


「ふ~……」(超至近距離)


(ちゃぷ、ちゃぷ……)


「ふぅ~……」(超至近距離)


(ちゃぷ、ちゃぷ……)


「ふ~ぅ……ふ~ぅ……」(超至近距離)


(ちゃぷっ、ちゃぷん)


「ふ~ぅ……ふぅ……」(超至近距離)


(ちゃぷ、ちゃぷん……)


「……いかがですか?」


「南国で眠っている気分になれましたか?」


「それとも……」


「別の気持ちになりましたか?」


「わたしはあなたが安らいでくれたのであれば」


「どちらでも、嬉しいです」


(ちゃぷん……ちゃぷん……)


「どうですか」


「よろしければ」


「もっと……ふぅふぅ、しましょうか?」


「ふぅ~……」(超至近距離)


(ちゃぷん……ちゃぷん……)


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