第12話 ひきこもりシンデレラ(サンドベリ歴1397年)


 仕事をしていると時間が経つのが早い早い。あっという間に三年が経過したよ。

 討伐した虚空魔獣は数知れず。

 クローンとのイチャイチャも少し落ち着いた感じの今日この頃です。


 そろそろクローン幼女に着手すべきか。



 * * *



 守護者たちは数か月に一回不定期にリモートで会合トークを開いています。

 そこでたまに驚くべき報告が上がることがある。


「パニュキスさんが王族に結婚を申し込まれたですって?」


「うん…」

 パニュキスさんによると、日ごろの虚空魔獣討伐のご褒美として王宮に招かれて、湖畔の別荘をもらったんだって。

 それで、別荘に遊びに行ってみると、王子さまとばったりでくわしてしまい、パニュキスさんを見て王子様は一目惚れ。

 王子様から正式に結婚の申し込みが届いたらしい。


「あのー、モブスタイルを解除してもらっていいですか?」

 そうお願いすると、パニュキスさんは瓶底メガネと不織布マスクをはずした。

 長いまつげ、黒い瞳、すらっとした鼻梁、つややかな唇、完璧な卵型の輪郭、腰まである黒髪は星をちりばめたようにキラキラ輝いていた。

 神秘的! まるで女神様みたいな美しさと儚さを兼ね備えていた。


 これは王子様じゃなくても恋に堕ちる!

 絶対に堕ちる!!!


『パニュキスちゃんは模造生命体アミュラ第一号ですからね』と自慢げに語るシルマリア様。


 模造生命体アミュラは成長しない。永遠の14歳だ。この世界の人とはタイムスケールが違うから、結婚は難しいだろう。


「それでパニュキスさんはどうするの?」

「わたしにはこの子がいるから」

 と言ってお膝にのせたのは、ひらひらフリルでお人形さんみたいに着飾ったパニュキスさんそっくりのロリっ子でした。


 クローン幼女! パニュキスさんって幼女派なんだ。


「この子がいるから外には出られないわ」

『いてもいなくても出る気ないですよね』とシルマリア様の突っ込み。

「いつもお仕事で忙しいし」

『週に一回程度ですけどね』

「結婚なんて無理」

『どうしてですか?』

「ひきこもれない」

『結局そこに行きついちゃうんですね。仕方がありません、こちらでお断りを入れておきます。仕事が最優先ですからね』

「うん」



「ねえ、シルマリア様、もしパニュキスさんが結婚したいって言ってたらどうなってたの?」

『守護者は引退ということになるでしょうね』

「それはマズイんじゃない?」

『パニュキスちゃんが結婚を望むなら、その選択を尊重してあげたいのですよ。そうなったら、また異世界日本に行って後任の守護者を探すことになりますね』

「へー。今まで引退した守護者はいたの?」

『いません。みなさんひきこもりライフを満喫していらっしゃるみたいですから』

「あはは、だよねー」

 結婚とひきこもりライフを天秤にかけたら、なんて、結論は最初から出ているようなもんだ。



 そのあと守護者たちはパニュキスさんから、あれこれ聞き出して盛り上がった。

 ひきこもりでもやっぱりコイバナは盛り上がるんだなーと実感した次第。



 * * *



 国王様から虚空魔獣討伐のご褒美にもらった湖畔の別荘を訪れたパニュキスさん。貴族っぽいドレスを着て湖畔を散歩していると、王子様と騎士様にばったり出会いました。


 キラキライケメンの王子様と、ワイルドダークなイケメン騎士様。さすが王族と騎士様です。美形レベルが半端ではありませんでした。


 王子様はパニュキスさんの腕を取り、手の甲にキスをしました。

「あなたのような美しい女性に初めて出会いました、この出会いに感謝を」


 アワアワとブチパニックになったパニュキスさん、くるりと背中を向けて走って逃げました。そのとき、不覚にも靴を片方落としてしまったそうです。


 王子様は拾った靴にキスをしてつぶやきました。

「見つけたよ、シンデレラ。あなたこそ僕の妃にふさわしい」


 その後、王子様は何度もアプローチをかけましたが、意中の女性は塔から出てくることはありませんでした。


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