第11話 カワイイは正義


 日課の鍛錬を終え、シャワーを浴びて部屋に戻った。


 姿見に移った自分の姿を見る。


 バスローブ姿がすごくセクシーだ。


 チラリと肩をはだけさせると。


 うわあ、誘惑しているよ!


 たまらずに、鏡に顔を近づけてキスをした。


 それから、鏡に映った身体に手を這わせる。


『なにをしているのですか?』


「ひゃっ!」


 びっくりして姿見から飛びのいた。



 ふよふよ浮かんだ見た目10歳の銀色の髪の女神様。いつものように淡い銀の光をまとってる。


「シ、シルマリア様、い、い、いつからそこに?」


『ふっふっふっ』


 いつも以上にニコニコ笑顔の女神様。こちらの焦りを知ってか知らずか。


「あははは…」


 イタズラが見つかった子供みたいな気分だった。鏡の中の自分にうっとりとしていたなんて、言えるわけがない。


 思い返せば転生したあの日、鏡の中の妖精のような姿を一目見た瞬間から、恋の虜になってしまったような気がする。


 以来、ちょくちょく鏡に向かってキスをしたり、ポエムをささげたりと、今考えるとちょっと痛いことをしていました。



『小森ちゃんがナルシストだったなんてびっくりです』

 女神様からストレートなお言葉。


「ううっ…。だって、かわいいんだもん」

『そりゃあ丹精込めて作った体ですからね』


 鏡の中の少女を見ていると、今も胸が切なく痛む。


 願わくば、この腕でぎゅっと抱きしめたい。


 ああ、この手で触れられぬもどかしさよ。




『このままだといつか鏡の中に飛び込んでしまいそうですね』


 心配したシルマリア様からまさかの提案。


『クローン体でいいなら作ってあげますよ?』


「え? ホントですか!? でもクローンって神の領域なんじゃ…」


『今さらなにを言っているのですか? 小森ちゃんは模造生命体アミュラですし、それになにより私は女神様なのですよ!』


「そうでした! すっかり失念しておりました。見た目10歳だし、いつもふわふわ側にいるし、かわいくて全然神様っぽくないもんね」


『褒めてるのか貶しているのかどっちですか?』


「もちろん褒めてるんだよ」



 クローン生成の概要を女神様が説明してくれた。


『マナで生成するクローンは環境にやさしいクローンです』


 環境にやさしいクローン…マナから生まれてマナに還るんだね。


『けれど問題はマナで生成したクローンには魂は宿らないということです』


「そ、そんな…」


『魂は宿らないけれど、記憶の転写をすることで、本人のように振る舞うことは可能ですよ』


「ぜひそれでお願いします!」


『うふふ。欲望に忠実ですね、それでこそ小森ちゃんです』



 日本にいた頃は、恋なんて一生することはないだろうって思ってたのに、恋に堕ちるのは一瞬だった。


 一年前のあの日から、何度妄想したことだろう。


 鏡の中から引っぱり出して、抱きしめあう自分たちの姿を。



 * * *



「あはははは」

「うふふふふ」


 クローンを作ってもらっちゃいました。


 というわけで、生まれて初めて、愛に溺れる日々、というものを体験しています。


 じっと見つめあったり、キスを交わしたり、ラヴェンダーブルーの髪に顔をうずめたり。


 妄想ではない、実体に触れることができるってなんて素晴らしいんだろう。


 キスを交わし、身体を重ねる。朝に昼に夜に幾度となく。


 妖精のような肢体に、ふくらみかけた胸に、何度も何度も甘いキスを落とす。


 ふたりは混ざりあいひとつになって、やがて天上へと至るのです。



『仕事はちゃんとしてくださいねー』


「「はーい」」



 このことが皮切りになり、守護者たちの間でクローンブーム到来です。


 リモートで顔を合わせると、それぞれがそれぞれのクローンをはべらせていました。


 モニターに映る人の数が一気に倍に膨れ上がって若干パンク気味です。


 中にはクローンを幼く作ってもらった守護者もいたりします。


 小学校の低学年--7歳くらいのクローンはとんでもなく可愛いです。


 ふーん。幼女趣味か。ありかもしれない。


 カワイイは正義だもんね。

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