第10話 ひきこもりライフ満喫中(サンドベリ歴1395年)


 リモートワークを始めて約一年が経ちました。こちらの生活にもすっかり慣れた小森です。


 守護者としての仕事は、週に一回の割合で襲来する虚空魔獣を討伐すること。


 たいていの虚空魔獣は心臓コアを破壊すると虚空に還っていく。


 仕事が終われば待望の自由時間。


 ネットを見たり、通販でお菓子をお取り寄せしたり、ひきこもりライフを満喫中です。



 * * *



 一方、日々の鍛錬も欠かさない。


 塔の中のシミュレーションルームで汗を流す。


 仮想敵から撃ち出される魔法攻撃、ファイヤーショット、アイスランス、ウィンドカッター、その全てをグランソードで断ち切る。


 音速を越えた弾丸を真っ二つにし、レーザービームを薙ぎ払う。


 一年間地道に鍛錬を続けた成果がこれである。


 パチパチパチ。


 10歳くらいの少女、半透明の女神様が現れて拍手をした。


『これならどんな虚空魔獣が現れても平気ですね』


 女神様のお墨付きをもらった。


 自分でも強くなったと実感できる。


 一年前のイージーさんの言葉を思い出す。

「筋肉は鍛錬を裏切らない。鍛錬は筋肉を裏切ってはならない」

 その意味が少しだけ分かったような気がした。


 そしてもう一つの鍛錬。


 意識を集中して、手のひらの上にマナを集積する。


 これはグランマリィシステムの応用みたいなもので、グランマリィが大気中のマナを大量に集積して形成されるのに対して、わたしは自分の周囲にあるマナを集積して光の玉を生み出した。


 マナの塊のようなグランマリィを操作できるのなら、マナ自体も操れるのではないかと始めたのがこの鍛錬だ。


 最初は難航したが、次第にマナを操れるようになり、今では手のひらの上に光の玉を生成することに成功した。


 魔法が存在する世界で魔法を使うという夢を実現するために、日々の鍛錬はかかせないのである。



 部屋に戻り、モニターに周囲の様子を映し出してみると、異変に気が付いた。

 ん? 塔のまわりが騒がしくなってる。


 いつのまにか周辺の森が開拓されて街ができて、人がいっぱい住み着いていた。


 グランマリィはリモートで世界中どこでもタイムラグなしで行けるのに。

 なんでわざわざ塔のまわりに?


 その理由をシルマリア様が教えてくれた。

『守護者は人気者ですからね。どこの大陸も塔の周辺に街ができています』


 近くに住みたいという気持ちはなんとなく理解できる。


 街が大きく発展した頃、街の代表がやってきて「街に名前を付けてほしい」って頼まれちゃったよ。

 仕方がないので、ちょっと安直だけど、「プチフォーレ」って名前にした。


「小森」→「ブチフォレスト」→「プチフォーレ」


 こうしてプチフォーレの街が誕生した。


 パソコンのモニターを通して、プチフォーレの街を観察する。


 いやあ。大きくなったねえ。


 役所や冒険者ギルド、宿泊施設もあるよ。


 そして!


 あれはスーパーマーケット! あっちに見えるのはコンビニ!

 何が売ってるんだろ? すっごく気になる。

 あ、でもお金持ってないや…。しょんぼり。


『お給金は小森ちゃん名義で銀行に振り込んでおきました』

「おおっ!」

 街には銀行もあるっていうから、今度引き出しに行ってみようかな。



 ある日、半透明のシルマリア様がやってきてうきうきと話してくれた。


『小森ちゃんファンクラブができました!』


「えええええっ!」


 とんでもない情報が飛び出した。10歳くらいの少女がふわふわと飛び回る姿はかわいくてほのぼのするけど、話の内容は全然ほのぼのとしてなかった。


『小森ちゃんグッズの売れ行きも好調です。Tシャツにタオルに抱き枕、写真集、それからパンチラフィギアは予約殺到で生産が追い付かないほどです』


「なっ、なんで異世界にパンチラフィギュアなんてものがあるのよ?」


『オタクはどこの世界にもまんべんなく存在しているのです。そしてよい収入源になるのですよ』


「つまり金づるね。いいように搾取されてるとも知らずに、ご愁傷様!」


『搾取ではありません、お布施です! お布施!』


 以前シルマリア様の言っていた大人の事情の正体はこれだったのか。


 七人のひきこもり…守護者を養うために、金策は必要不可欠なのは理解できる。

 理解できるけど…。


「パンチラフィギアは恥ずかしすぎるぅー。ううっ、もう外を歩けない」


『ひきこもりは外に出ませんから、問題ありませんよね』


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