第9話 集まる日


『守護者たちが集まって小森ちゃんの歓迎会するみたいですよ。リモートで』


 シルマリア様からのお知らせがきた。


 守護者たちはそれぞれ第一から第七の大陸に住んでいる。なのでリモートでの歓迎会は理にかなっている。


『転移陣で行き来できるようになっていますから、会いたければいつでも会いに行けますよ』


「ソーデスカ…」


 七つの塔の守護者についに会える日がきたのです。


「タノシミデス…」


 ピコン。パソコンが鳴った。

 見てみると歓迎会開催のおしらせのメールが届いていた。



 * * *



 歓迎会当日、時間になるとモニタ上に七つの塔の守護者が集まった。


 驚くなかれ、みなさん全員瓶底メガネに不織布マスクというモブスタイルでお目見えでした。


 かくいう私も瓶底メガネに不織布マスクに緑色のジャージというモブスタイルで参加です。


 初対面の人に素顔をさらすのって抵抗あるもんね。


【ひきこもりの申し子--14歳のひきこもりたい魂を持つ少女のことである。By.マーりん】


 七人の守護者たちは皆同じような感性の持ち主でした。


 だがしかし、守護者は女神様が作った模造生命体アミュラ。


 瓶底メガネに不織布マスクというモブスタイルをもってしても、隠しきれない美貌が画面からにじみ出ていたのだ。



 新参者から口火を切って挨拶する。


「はじめまして。このたび七番目の塔の守護者に就任した小森です。ふつつかものですがよろしくお願いします」

「ごきげんよう」

「はろー、ゆっくりしていってね」

「よろしくなの」

「よろしくきんにく」

「今日もいい日でありますように」

「ん…」


「みなさんのお名前は?」

「名前は捨ててしまったわ」

「名前は…まだない」

「名無しなの」

「きんにく以外思いつかない」

「前世の名前に未練はありません」

「ん…」


「みなさんのことなんて呼べばいいですか?」

「塔の名で呼んで。わたしはパニュキス」

「同じく塔の名で、ハルナキス」

「デーニーなの」

「きんにくではなくイージーと」

「ラブデイと呼んで下さい」

「ん…アンジュ」


 ふむ。とりあえず、しっかりと守護者たちの特徴をメモ。


 第一の塔の守護者パニュキスさん。黒髪、ロングストレート。身長170cm。

 第二の塔の守護者ハルナキスさん。ブロンド、さらさらセミロング。身長170cm。

 第三の塔の守護者デーニーさん。シルバーブロンド、ニュアンスパーマ身長165cm。

 第四の塔の守護者イージーさん。イエロー、くるくる縦ロール。身長165cm。

 第五の塔の守護者ラブデイさん。ピンク、ふわふわ。身長164cm。

 第六の塔の守護者アンジュさん。レッド、赤毛のアン風おさげ。身長164cm。

 そして第七の塔の守護者ソレンティ。ラヴェンダーブルー、ロングソバージュ。身長167cm。


「小森さんのことはソレンティって呼べばいいかしら」

「あ、小森でお願いします」

「じゃあ、小森ちゃんって呼ぶわね」

 パニュキスさんはしっかり者のお姉さんって感じだ。サンドベリに来たのも一番早かったんだって。


「小森ちゃんもひきこもりに憧れながら学校に通っていた口?」

 ハルナキスさんに質問された。ボーイッシュな感じの人だ。

「そうですね。毎日が虚しくて、ひきこもりたいと願っていました。そしたらシルマリア様がやってきてスカウトされました」

「わたしもそうだよ」

「あたしもなの」

「きんにくも」

「わかります」

「ん」


「グランマリィの操作には慣れたなの?」

 次はデーニーさんからの質問だ。かわいらしい喋り方が印象的。

「実戦は一回だけ経験しました。後はシミュレーションです」

「体力をつけておいたほうがいいなの。虚空魔獣討伐は力勝負みたいな所があるなの」

「りょうかいです」


「筋肉は鍛錬を裏切らない。鍛錬は筋肉を裏切ってはならない」

 格言のようなことを言い出したのはイージーさんだ。特徴は縦ロール。

「討伐対象は巨大な奴だけじゃない。人に化ける奴も時々いる。いざという時には筋肉こそが最大の武器になる」

「マジですか」

 人に化ける虚空魔獣は初耳だった。


「一度だけ遭遇したことがあります」

 そう言ったのはラブデイさんだ。言葉遣いが丁寧でふんわりした感じ。

「幸いなことに無害な虚空魔獣だったので討伐せずにすみました。けれどアンジュさんの所では」


 話を振られて赤毛のアンジュさんは読んでいた本から顔を上げた。(※最初からずっと本を読んでいました)

「ん…。悪そうな奴だったから直接ぶちのめした」

「ええっ!」

「だから、筋肉、大事」


「みんな、小森ちゃんが戸惑っているわよ」

 とパニュキスさん。

「最初は戸惑うことも多いかもしれないけれどこれが守護者の仕事よ。グランマリィで出撃することもあれば、守護者自身が直接赴いて討伐することもあるわ」


「なかなか、大変そうですね…」


「そうでもないなの」とデーニーさん。「体力さえ付けてれば大丈夫なの」


「筋肉は力なり」とイージーさん。「筋肉は力を裏切らない、力は筋肉を裏切ってはならない…」


 続いてハルナキスさん。

「模造生命体アミュラは特別製だから、鍛錬すれば鍛錬するほど強くなるよ。面白いくらいにね」


「ん…。筋肉を付けると仕事が片手間でできるようになる」

 本を読みながら語るアンジュさん。


「鍛錬の後はしっかりと休みましょうね」

 とラブデイさん。


 そしてパニュキスさん。

「何かあったらいつでも連絡をちょうだい。わたしたちが力になるわ」

「はい、よろしくお願いします」


 こんな感じで歓迎会は終了した。



 * * *



 後日、さっそく鍛錬を始めることにした。


 とりあえず、塔の周りを歩いたり走ったりして体力をつける。

 それから塔の中のジムに行って汗を流す。


 なるほど、この身体は面白いくらいによく動く。

 すらりとした腕や足から繰り出される打撃技は恐ろしく強力だ。


 森に行ってパンチやキックを試してみると、太い木の幹が一撃でボキッと折れてしまった。



 サンドベリのどこにでも存在するマナ。


 サンドベリの人々の身体にはマナが充満していて、彼らは体内にマナがあるから魔法が使える。


 一方、模造生命体アミュラの体内にはほとんどマナがなく、魔法を使うことはできない。だが、魔法攻撃を無効化できるという特性がある。


 これはこれで便利ではあるけれど、魔法世界で魔法が使えないというのはやはり物足りない。


 どうにかして魔法使えないかな。

 追々考えていこう。



 鍛錬を終えて部屋に戻ると汗びっしょりになった姿が鏡に映っていた。


 美少女は、流れる汗も、美しい。

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