第4話 亜空間を渡る


『サンドベリに行ったら帰ってくることはできませんが、だいじょうぶですか?』って女神様に訊かれたときに「だいじょうぶです」って答えたけれど、気になることは幾つかあった。


 まず第一に、アニメの続きが気になる。


 第二にラノベの続刊も気になる。


 それから…。


 …。


 …。


 …。


 日本において楽しみがアニメとラノベだけというのが、なんだかとても切なかった。


 そこへ女神様の鶴の一声。

『それくらいだったら大目に見ますよ』

「え?」

『配信とか電子書籍とかはネットで閲覧可能ですし、お菓子なんかもネットで注文すればお取り寄せできちゃいますからね』

「マジデスカ」

『ネットにボーダーラインはありません。異世界であろうと日本であろうと』

「うわあ! そんなのアリなんだ!」

『アリですアリ』

 ちょっぴりあった不安感も全て払拭された。


 むふふふふ。


 これからいく世界がとても楽しみになってまいりました。



 * * *



『私のことはシルマリアと呼んで下さいね、小森ちゃん』

「うん、シルマリア様」

 女神様を呼び捨てはできないので、様をつけた。


 次にシルマリア様が投げかけた質問は、ひきこもりには絶対にしてはいけない禁断の質問だった。

『小森ちゃんはトモダチとかいなかったのですか? あ、ボールがトモダチとかいうのはナシでお願いします』


「…」


『沈黙が答えなんですね…』

 はいはい、ボッチ歴14年ですよ、それがなにか?


『好きな子とかはいなかったのですか? 初恋はいつだったのですか?』

 シルマリア様がグイグイくる。なにげに女神様もコイバナが好きらしい。

「恋をしたことないからわかんない。たぶん恋なんて一生しないと思う」

『小森ちゃん、それはフラグです。そういう人に限ってコロッと恋に堕ちちゃうものなんです』

「ううん、絶対にないよ」


 中学一年生の時のことを思い出した。

 間違って学校に持ってきてしまったマンガの下書きの原稿を、運悪くクラスメートの男子に見つかってしまった。


『タイがまがっていてよ』

『上級生のことはお姉さまと呼ぶのがここでのたしなみ』

『スカートのプリーツを乱さないようにゆっくりと歩きなさい』


 原稿を見て、クラスメートたちは大爆笑だった。

 2~3日の間、バカにする言葉が浴びせられたが、クラスメートたちの関心事はすぐに別の事に移っていった。

 この事件も、彼らにとっては一時的な娯楽でしかなかった。

 マンガの下書き原稿は箱に入れて押入れの奥に封印した。



 * * *



『サンドベリに着いたら、すぐに魂の移植を始めますね』

「わかった」

 シルマリア様に訊いてみた。

「どうしてわたしを選んだの?」

『端的に言うと適性検査に合格したからですね』

「ひきこもりサイトのひきこもりチェックだね」

『ですです。以前、適性検査に合格してない人を連れて行って、とても面倒くさい経験をしたことがあるのですよ。なのでサイトで厳重にチェックして、それからスカウトですね』

「ふーん、女神様も大変なんだね」


 ひきこもりの申し子の選別…あのサイトにはそんな役割があったんだ。


『小森ちゃん、サンドベリに到着しましたよー』

「はーい」


 これで小森としての生は終った。これから新しい身体に生まれ変わる。

 そして異世界での夢のひきこもりライフが始まるのだ。


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