第3話 姉と妹


 乃音のねは宿題の手を止めて壁を見た。

 さっきまで隣の部屋から姉の話声が聞こえていたのだが、今は静かになった。

 と思ったら、再びガサゴソと音がしだした。


(お姉ちゃんまたなにかやってる。まあ、いつものことだし放っておこう)


 乃音の姉を一言で言い表すなら『ひきこもり』だ。

 いつも、ひきこもりたい、ひきこもりたい、と独り言をつぶやいている。

 部屋が隣だから聞きたくなくても聞こえてくるのだ。


 去年までは姉は鉛筆でよくマンガを描いていた。

 けど、学校で何かあったらしく全く描かなくなった。

「これは黒歴史よ」と言って原稿を押入れの奥に封印した。


 最近の姉は正直言ってよくわからない。

 母親は「お姉ちゃんは難しいお年頃なのよ」って言っていた。

 それはもしかして噂に聞く『中二病』というやつではないだろうか。


 宿題も終わったので、一階に下りておやつを食べることにした。

「あれ?」

 冷蔵庫を開けると、プリンが二つあった。ひとつは乃音ので、もうひとつは姉のぶんだ。

「食べ忘れてるよ、お姉ちゃん」

 めずらしいこともあるもんだね。おやつに目がない姉は、いつも真っ先に食べるのに。

「あらほんとね」

 母親の一葉かずはも後ろから覗き込んだ。


 日が暮れた頃、父親も帰ってきて、家族そろっての夕食の時間になった。

「おや?」

 父親が姉の不在に気が付いた。

「お姉ちゃんなら部屋にいるみたいだよ」

「そうか」

「ちょっと様子を見て来てくれる?」

 母親に言われて乃音は席を立った。

 天井を見上げるとガサゴソと音がした。


 プリンも食べず、夕食にも降りてこないなんて。

 階段を上り、姉の部屋のドアを少し開けて覗いてみた。

「お姉ちゃん?」

 するとそこには、金髪を編み込んだ青い瞳の美少女がベッドに腰かけていた。

「えええええっ! お、お姉ちゃん?」

「やっと来ましたのね。ずいぶん待ちましたわよ」

 見たことのない紺色の制服を着ていた。

 コスプレ? しかも、金髪碧眼超絶美少女になってる!

 乃音はごしごし目をこすった。

「あたしの目おかしくなっちゃったの?」

「あなたお名前は?」

 姉に名前を訊かれて首をかしげる。

「の、乃音だけど…」

「そう。わたくしはパトリシア・パディントン。パディントン王国の第三王女ですわ」

 お姉ちゃんが王女様? それに、パディントン王国ってどこですか!

 乃音はしばらくの間、姉を見つめて口をパクパクさせていた。


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※乃音は小学六年生。小森の二つ下です。

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