続いて
―2 レアンシャントゥール
時代は下って新世紀九六八年、エーテリア西方社会の大国ランスにローラン・ド・ラヴォワーズという学者がいた。彼は魔王ハジュンが人類を効率的に支配するために用いていた方法で、魔王消滅と同時にその力を失っていたもの――つまり魔法の研究をしていた。
実はこの頃になると旧世界末期、魔王の全盛期に作成された様々な物品から不思議な力が観測されるようになったのだ。ラヴォワーズはこれに大いに興味を示し、旧世界を席巻した魔法技術の解明と再現することに没頭したのである。
そしてついに魔法の術式を解き明かし、実用化に成功したことで時のランス国王に絶賛された。この功績にラヴォワーズは王から伯爵号を賜り、これに付随して新たに設立された王立魔法アカデミーの初代学園長に任命された。
この素晴らしいアカデミーは多くの賢者、魔法使いを輩出し、魔法を数学や天文学、錬金術(化学)等の理系学の根本的な性質を含むものであるとして、さらに多くの発見や発明に寄与した。
やがて彼らを通じて魔法の技術は日進月歩で促進していき、それらがもたらす恩恵は社会インフラを向上させて人々の生活の中に根付いていった。
この旧世界に失われた魔法技術の復興が新世紀の文明を一気に開化させていく一連の社会現象をラヴォワーズはこう名付けた。魔法使いの復活――レアンシャントゥール。
ラヴォワーズが最初に興味を引いたように、旧世界末期に魔王、或いはそれに比する力を持った者達によって作り出された様々な魔法の工芸品にも注目が集まった。これらは指輪等の装飾品や武具が多いが、中には巨大な重機や兵器もあり、強力な魔法が施されていて手にした者に大きな力を授けることが発表された。
この一報がエーテリアを駆けめぐると、それまで一部のもの好きか考古学者がせいぜい参考程度に集めていた古代遺物が、一転して垂涎の至宝に変わった。
多くの人間が自宅に眠る骨董品を引っ張り出して鑑定屋に殺到したことは言うに及ばず、まだ見ぬ宝を目指して冒険の徒につき、魔王ゆかりの遺跡や地下迷宮、古戦場に夢を求めた。
そんな者達を支援する目的で、ラヴォワーズに資金提供をしていた大企業メルビルス社が冒険者
こうした盛り上がりに反して、魔法を使うことへの懸念はラヴォワーズが研究成果を発表した直後から示唆されていた。一部の研究者は、魔力が復活した背景にはこの世に魔王が甦ったからであるという大胆な仮説を唱えて界隈をにぎわせた。
ラヴォワーズはあくまで自身の研究の成果であることを主張して譲らなかったが、実際に魔法を発動させる魔力とはどんなエネルギーであるのかについての問いかけには答えなかった。
事実として魔法は多くの危険性をはらんでおり、すでに様々な社会問題を生じさせていた。特に利益だけを追求する人間が低品質で粗悪な魔法術式を粗製乱造し、違法に取引するようになると、大きな事故が頻発した。火の玉を放つ魔法が暴発して街中で爆発したり、透明化の魔法が解除できなくなって生活に支障をきたす者が出たり、医療用に提供された治療魔法が突然変異して恐ろしい病を引き起こすなど、事例は枚挙に暇がない。
他にも魔法を用いた犯罪件数は年々右肩上がりで増加していき、烈日の如く発展する社会の裏に潜む深刻な暗部となった。
―3 ランス民主革命
様々ある魔法の種類の中で最も早くに研究が進み、実用化された分野が情報処理と通信技術である。それまで活版印刷による新聞や書籍などで世の中のことを知り得ていた市民たちが魔法(例えば映像と音声など)によって一度に多くの精査された情報を閲覧できるようになった。
そうすると王、僧侶、そして貴族といった特権階級に居座っていた者達の実態を市民たちが知るところとなったのだ。
彼らが見たものは、自分達に重税を課して厳しく取り立てた金を使って酒池肉林のやりたい放題に興じて笑う貴族のおぞましい姿だった。連日にわたって開催される
魔法は新しい文化の到来を告げる福音であったはずなのに、その利便性が返って彼らの腐敗した生活様式をそれまで下に見ていた平民達の前に曝け出してしまったのである。
支配者が情報の統制と扱いの重要さに気が付いた時には遅く、国民を大いに怒らせ、奮い立たせた。
新世紀九八五年、レアンシャントゥールが発祥したランスにおいて、ついに市民による革命が勃発した。彼らは暴徒と化してランスの各都市で一斉蜂起。やむなく国王は軍隊を動員して鎮圧を命じたが、多くの兵士が命令に反して民衆に味方した。
王や貴族、聖職者であってもこの流れを止めることができず、彼らは自分たちが頑なに守ろうとした既得権益や支配体制が崩壊していくのを眺めるしかなかった。
新世紀九八八年、ついに主権は国王から民衆の手に移移った。この時に臨時政府が掲げた国是は
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