機罡戦隊-きこうせんたい-

あおくび大根

はじめに


 あまたある異なる世界の一つにおいて




ー1 魔王ハジュンと女神カノン


 はるか悠久の昔から多くの生命を育み、幾多の歴史を記してきたエーテリア大陸に冥界の魔王ハジュンが降誕した。

 ハジュンは人間の心に呼びかけ、自身に服従した者へ魔力を与えると、己が意志のままに動く強力な軍隊を作り上げた。これが魔王軍と呼ばれ、この強力な闇の軍団は瞬く間にエーテリア大陸に息づく三つの文化圏のうち東部世界オリエント中つ国メディウムを征服した。

 残された西方社会オクシデントは魔王の侵略に総力を挙げて抗うも、圧倒的な攻撃力を有する魔王軍の前に成す術がなかった。

 人類に残された選択肢が魔王軍に陵辱されて死ぬか、奴隷として服従するかとなったその時、正義の女神カノンが覚醒した。


 カノンは神の力を宿した五体の機罡獣きこうじゅう――天界の特殊鉱である機罡石から練成され、神々を守護する霊獣を模ったもの。不思議な鳥、勇猛な獅子、蒼穹の覇龍、大地の巨象、礎なる大鯨――を自身で選び出した五人の若者にそれぞれ授け、ここに機罡戦隊を結成した。

 当初はお互いの連携がうまくいかず仲違いをくり返し、相棒である機罡獣の力も使いこなせず苦戦を強いられた若者達であるが、徐々に結束を強めて魔王軍に勝利するようになると、やがて味方の数も増えて大局的に魔王の軍勢を押し返す希望となっていった。


 カノンの機罡獣に対抗すべく魔王軍も七体の巨人兵器群を建造して戦線を膠着させ、これが破られると今度はハジュン自ら精製した三体の機罡獣――空翔ける天使、陸震わす巨猿、深き海の魔竜――による死闘が繰り広げられた。


 これらの危機をどうにか退け、最後の戦いにおいて、追い詰められたハジュンは地球そのものを破壊する超魔法術式を発動させた。機罡戦隊は寸でのところで術式を止めるが、暴走した魔法のエネルギーに巻き込まれ、魔王もろとも行方知れずとなった。


 勝利の代償は大きく、魔王と同時に地上から魔法の力も消えてなくなった。それは魔王ハジュンの力の象徴であり、人類を隷属させるためのものではあったが、同時に人々の生活の根幹をなさしめるほどに浸透した利便性の高い技術であったため、魔王消失後の世界は大混乱に見舞われた。


 失われた時代を経て、ようやく人類が新たな生活基盤を手に入れて復興が進むと、魔王の支配した時代までを旧世界、それ以降を新世紀と制定し、歴史を刻んでいくこととなった。


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