次に
―4 ジャンヌ・ヴァルト
ランスにレアンシャントゥールが勃興するのと同時に一人の少女が生誕した。爵位もなければ領土もない貧乏貴族ヴァルト家の四女であった少女はジャンヌと名付けられ、世の中が魔法の恩恵で急速に発展していくのに伴って元気にすくすくと育った。
やがて十歳の時にジャンヌはランスの首都ルティにある陸軍幼年士官学校に進学する。才能はすぐに開花し、十六歳になるころには少尉として王宮警備隊に任じられ、その中でも特にエリートしか選ばれない王直属の護衛官に選抜された。
ところが時代はランス民主革命を迎え、王族と共にジャンヌも逮捕されてしまう。ただし、この頃になると彼女は腹に子供を身籠っており、女児を産むと監獄を出されて解放された。
しばらくは革命後の変遷を外部から見守っていたジャンヌであったが、ランスの民主化を良しとしない周辺国家が合従連衡して侵略の機を伺うようになると、臨時政府に乞われるまま再び軍服の袖に腕を通した。
ー5 対ランス合従連衡
新世紀九九六年に勃発した戦争は第一次対ランス合従連衡戦争といわれるが、ジャンヌを司令官に据えたランス軍はこれに快勝。九九九年の第二次戦争も合従軍は散々に蹴散らされ、ジャンヌ・ヴァルトの名を
新世紀一〇〇四年、ジャンヌ・ヴァルトは国民からの絶大な支持と周囲の推薦もあって、自ら皇帝となることを宣言。時の教皇庁もこれを渋々認め、ここに皇帝ジャンヌ・ヴァルトと帝政ランスが誕生する。
ランスが共和制に移行してわずか十六年後のことであったが、ジャンヌは国家の統一を強調し、法律や教育制度の改革を行うことで共和制時代の理念を部分的に引き継いだ。これは新たな形の権力集中と構造の変革を生じさせ、王政復古とはまた異なる政治の形態としてランスの発展に務めた。
だが周辺国家はランスの台頭を黙って眺めているわけにはいかず、機を見るに度々攻め入る姿勢を見せた。
ジャンヌが帝位を戴冠した翌年、一〇〇五年から〇七年ランスを敵視する周辺国家は二度にわたって合掌連衡して攻め込んだが、いずれもジャンヌの武威に敗退し、悪戯に領土を失う結果となった。
気が付けばランスは西方社会で最強の大国となっており、もはや手の出せる相手ではないと周辺国の支配者が意気消沈しかけた時、彼らにとって転機が訪れた。戦女神とも称される皇帝ジャンヌが病臥に伏したというのだ。
彼らはこれこそ天の采配と手を打ち、一〇〇八年に五回目となる合掌連衡作戦を敢行した。
この侵略に対して絶対的な指導者を欠いたランスは後手に回り、ジャンヌの不在で政権を運営する代理政府の
この勝利に味を占めた各国はさらに数年後の一〇一三年、六度目となる合掌連衡による侵攻でランスに完全に止めを刺そうと考える。未だ復帰の敵わないジャンヌの跡取り問題などで揺れるランスの首脳陣に彼らをどうにかする術はなく、ついに首都ルティが敵軍に占領されてしまった。
これで勢いに乗るかに見えた合従軍であったが、逆にルティを占拠している軍隊以外から勝利の報告が聞かれなかった。
不可解に思った合従軍の首脳陣であったが、皇帝ジャンヌ・ヴァルトが復調して戦地に出現したという報告を聞いて魂が抜けるほど驚いた。馬に乗って颯爽と戦場を駆ける戦女神の姿を見ただけで合従軍の士気は挫かれ、一斉に逃げ帰ったのだ。
ほどなくして首都ルティも解放され、この戦いは周辺国にとって皇帝ジャンヌの圧倒的な存在感を知らしめされて終わった。
ー6 戦後会議
度重なる戦争で荒廃したのはランスばかりではなく、むしろ何度も敗戦を繰り返した周辺国の疲弊の方が目に見えて国力を失っていた。西方社会を立て直すべく、新世紀一〇一五年、戦後の処理と方針を話し合うための国際会議がランスで行われることになった。
ジャンヌは今後の西方社会の在り方について経済的な結びつきを強調し、平和と安定の追求を求め、連邦制を提唱した。戦争による影響か、六度に及ぶ大戦争で魔法の技術は格段の進歩を見せ、旧世界でも使用を制限された大量破壊や殺戮を可能とする究極魔法の実用化が可能な域に達していた。これ以上各国が争えば、この世は仮に魔王がいたとして、その復活を待つまでもなく自らの魔力で滅んでしまうだろう。
それでも渋る各国の代表であるが、ジャンヌは自らの皇帝を退位することを条件に付け足した。ここまで譲歩されてはたまらず、国際会議は西方社会の一致団結と大枠による連邦制を承認した。
ところが会議が済み、各国の代表団が息抜きをしようとしたところへ凶悪な力を持った怪物による襲撃を受けたのだ。
この事件は多くの犠牲者を出し、ジャンヌも重傷を負った。
後にこの事件の首謀者と語る人物からの声明が発せられた。
「我らは魔王軍ヴァイダム。これはほんのあいさつ代わりよ。この日から魔王復活へ向け、我らの戦いが始まるのじゃ。人間共よ、震えて待つがいい」
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