逆転の一撃
先程、レイがランボルグの股下を潜り抜けた時だ。ルシファリアの持っていたガマ口財布が目に入ったのを幸い、拝借しておいたのだ。これはエースライザーで能力を引き上げるまでもなく、レイの動体視力だけで事足りる仕事だった。
それをカーバンクルに預けると、この不思議な鳥はルシファリアの宝筐に保管されていた白玉剣と自身を霊的に接続させた。一時的ではあるが、こうすることで白玉剣の持つ特性を自分自身の能力であるかのように使えるのである。
だから魔星のエネルギーで磔にされている時、カーバンクルはまんまとその魔力を吸収して自身とエースライザーのエネルギーを補填させたのである。そして間にレイをはさみ、三者でここからの逆転を期したのだ。
敵が物品紛失に気が付き、騒然となったところでレイが仕掛ける。魔力を十分に蓄えたエースライザーは苦もなく彼らの拘束を振り払い、レイとカーバンクルを解放した。続いてカーバンクルは魔王軍の戦士達を、それまで自分たちを磔にしていたものと同じ術式で捕縛したのだ。
「ボクも術式の解析は得意なんだよ、ヴェロニック! 術式の構造と種類を判別して、対抗式を組み上げなきゃ魔法の打ち消しなんてできないからね。逆もまた然りさ」
というカーバンクルの言葉に、十字架の拘束下にある白薔薇の魔導士は歯ぎしりした。
「エースライザー、一〇式一五五ミリ榴弾砲に変化よ」
瞬時に万能武具は自身を長大な砲身を備えた牽引式火砲へと姿を変えた。通常ならば訓練されたランス軍の特科隊員が複数人で運用する巨大兵器だが、エースライザーは砲班員数名分の役割を自動でこなし、砲班長たるレイの号令を待った。
照準手兼安全係を自称するカーバンクルがその間にも操作パネルを羽でタッピングし、射向付与やら視準器の調整をしている。
「おい、アルジュリオ士長! おまえ、この距離で榴弾を撃ち出すつもりか? 野戦特科の経験がないようだから教えてやるがな、こんな至近距離で着弾させたら、お前らだってまとめて木っ端微塵だぞ!」
「安心してよ、ヴィガン二尉。撃ち出す弾はこれよ」
手にしていた白玉剣にカーバンクルの宝石から照射された光を照射すると、剣は砲弾に姿を変えた。レイはそれを砲身後端の下部に設置されている装填用の受け皿に乗せると、砲班員たるエースライザーがそれを持ち上げ、開かれた尾栓から全自動で砲弾を装填した。
「おのれ、レイ・アルジュリオ! 私の
「そうだ、いいこと思いついたわ」 魔王軍の首魁の叫びをさらっと聞き流し、砲班長はぱんと手を叩いた。「以降、この火砲をメーザー砲と呼称する。カーバンクル、今回も遠慮はいらないわ。メーザー砲の出力全開!」
「ねえ、レイ! あなたってば学習能力はないわけ? また城砦に穴をあける気かしら!」
「ちゃんと計算した結果よ。あなた達の力をたっぷり吸い込んだこの弾に、さらにエースライザーの威力を上乗せして発射すれば巨人の心臓部ごと破壊できるわ」
「――! まさか、あなたはマージそのものを破壊する気なのですか。仮にそれが可能だとして、巨人の心臓部である魔力炉心が爆発すれば、先のグビラードとは比べ物にならない規模の威力になるのですよ!」
「ここにはお前の仲間だっているのだぞ。あの
ジリン、ジリン……と音が鳴った。レイは懐から自身のタブレットであるアイホーク3ノワールを取り出して、耳にあてがった。「はい、アルジュリオ」
「……」
タブレットの会話が気になっていそうな魔王軍を気遣い、レイはタブレットを画面外までスワイプさせた。魔窓が開いて、受信していた映像が映し出される。そこにはランス軍三佐の階級章を付けた黒人将校の姿があった。
「レイ、こちらは全ての人員を想定爆発範囲外まで退避させた。城砦内にはネコ一匹と残っていない」
「外に脱出したというのか?」 外周警備の任務にあったグレンザムは信じられないといった声を出す。「バカな! 許可のない車両があればグビラードが攻撃するはずだが」
「これのことか」
魔王軍にエルリックは自身のタブレットで背景を映して見せてやった。そこは操縦席のようであり、歳の若い軍人がマニュアルを片手に操縦をこなしていた。それを見た魔王軍の戦士達は、すぐに彼らがどこから通話をしているのを理解して声を飲んだ。
「この四本足は我が軍が鹵獲した。こんなものを動かす技術には脱帽だが、作りに粗が目立つと魔王軍の開発部に言っておけ。容易く敵の侵入を許すあけっぴろげな構造は今後の運用に難ありだ」
「ブラボー、隊長! それからブリック、ちゃんと操縦するのよ」
「お、おう」 レイにいいところを見せようとブリックが手を離した瞬間、ぐらりと画面が揺れた。慌てて操縦桿を握って姿勢制御する若い将校に「集中せんか」とエルリックの怒鳴り声が響いた。
「あーあ、これだもんな」
「あら、ブリックって操縦技術には定評があるのよ。どんな車両でも器用に乗りこなすんだから!」
「ともかく、こちらの心配はいらない。そういえばレイ、お前の昇級と異動の祝いがまだだったな。この戦いが終わったら派手にやってやるから、必ず生きて戻ってこい」
レイが敬礼すると、エルリックも返礼し、そこで画面が消えた。「カーバンクル……」
「うん」
「今の聞いたわよね。散々はぐらかされて来たけど、これでやっと憧れの第一空挺団入りよ!」
「そいつは愛でてえな」
あら、ら? 背後から近づいた大男にレイは直前まで気が付かず、攻撃を避けられたのは本当に偶然だった。「ヴィガン二尉⁉ どうやって……」
「へっ! 知っているか? 術式ってのはよ――」
あっという間に距離を詰められた。何があったのか、白い鎧男のスピードは先程までとは段違いだ。レイの唇に触れようかというほど近いところまでマキシム・ヴィガンことシェランドンの接近を許してしまう。
魔戦士は囁くように言葉を続けた。「――馬鹿力で壊れるんだよ」
バチッと雷がはじけたかと感じると同時にレイの体は電光に打たれ、バリバリと空中に稲妻をまき散らしながら吹っ飛ばされた。
「レイ!」
「おっと、鳥野郎。妙な動きはするなよ」
シェランドンはレイの頭を片手で握り、宙吊りにした状態でカーバンクルに相対した。「少しでも怪しいマネをすればこいつは死ぬ。助けてほしければ、そのふざけた武器をたたんで仲間の拘束を解除しろ」
これに驚いたのは魔王軍の戦士も同じであった。「……あれは本当にシェランドンなのか? まるで別人じゃのう」
「どうやら魔星の第二段階へ昇格したようだ。いびり続けたかいがあったな」
「私は最初から彼が本作戦における肝心要であると言ったはずですよ! もちろんこうなることを見越していました。……何ですかルシファリア、その目は」
(撃て、カーバンクル! 私にかまわず……)
「シェランドン!」
うあああっ! 大男に掴まれたまま電撃を受けたレイはたまらずに悲鳴を上げた。手足が力なくぐったりと下がり、体のいたるところから細い煙があがっていた。
「メルシー、モン・シェリ! そうか、お前らは脳内で会話ができるのだったな。よし、俺が今から三つ数える間にどうするかを決めろ」
だらんと無気力に手足を下げるレイの脳裏に誰かの声が響いた。「どうしたレイ。
「う……。ラ、ラセン……⁉」
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