第14話 漠然とした不安と焦り
「わああ、モフモフ!」
「メアメアメア」
「セレナ。僕もそのぐらい熱烈にハグして欲しいのだけど」
「ルーファは魔王なのに、私の傍にずっといて大丈夫なの?」
「うん。僕にとっての最優先事項はセレナだから良いんだよ。それの僕とシュトロンはラスボスのようなものだし、階層の状態チェックも別モニターで確認する監視役もいる。各国の使者が来るとしても外交官に最初は当たらせるしね」
思ったよりも
今日は牧場階層でモフモフ幻想動物の夢見月羊の毛狩りシーズンを迎えたため、暢気にモフモフの毛を刈りとっていて……平和だわ。
この毛は良い毛糸になるのだ。肌触りも良く暖かいので冬前にセーターやカーディガンにすると良い。ちなみにマリー領では恋人に贈るのが伝統行事になっていた。
今年は私も作るのかぁ。
恋人。
意識したらちょっと恥ずかしくて、でも嬉しい。八年前はルーファに作ってあげたいと思っていたのだ。
「これなら上質な毛糸がきっとできるね。セレナは、その、……マリー領の伝統とか、覚えている? ほら、冬になると流行っていたアレ!」
手作りのセーターやカーディガンが欲しいのだろう。セの字も出していないが、文脈からして遠回しに攻めている。いつもなら直球でほしい、したい、っていうのに。
そういえば昔、恋人同士のやりとりをルーファが真剣に見ていたっけ。いつか自分もやってみたいって思っていたのだとしたら、ちょっと可愛いかも。
「セレナ」
「(うっ……柳眉をへにょりとして、ずるいわ)……私、編み物は得意じゃないの。それでも文句言わない?」
「セレナ! うん、文句なんていうものか。僕にくれるってことだよね!? こ、恋人だから!」
「う、うん(耳が真っ赤になって……か、可愛い)」
「夢じゃないよね?(動画に録音もバッチリだけれど、なんだか幸せ過ぎて怖いな。ああ、でもすぐ傍にセレナがいて、手を伸ばしたらギュッてできる)好き、結婚しよう」
「恋人気分を楽しみたいのだけれど」
「恋人も嬉しいけれど、早く僕のだって安心したい」
「(最近、結婚したいってよく言っているけれど、ルーファは何を焦って……急いでいるの? 八年間の溝を埋めるためにものんびり恋人からっていって納得したのに?)安心したいって?」
ルーファは私の頬にキスをして嬉しそうに微笑んだ。
「
「そっか(私の安全が気になったのね。でも安全と婚姻がどう繋がるの? 結婚したらルーファにとっては何か大きく変わる? ルーファとの結婚は嬉しいけれど、八年も期間が空いてしまって恋人から始めようって……ちゃんと恋人らしいことできているかしら。こんな風に不安になるのは私だけ……?)」
ルーファは私を大切にしてくれて、優先してくれる。
八年の間、人との関わりを制限されていたため王宮に親しい人はいなかった。慈善活動で接してきた孤児院の子達やダヴィなど趣味友達が支えだった。
自由に動き回れて、制限されない生活は新鮮で楽しい。ルーファの隣にいるのが嬉しいのに、新しいことを知るたびに今までの自分は本当に何も知らなかったのだと無知を突きつけられ、上手く笑えているかわかなくなった。
「ねえ、ルーファ。毎日遊び歩くのも悪いわ。私に何か仕事はない?」
「セレナはそんなこと考えなくて良いんだよ。僕に任せて(今まで政務をこなしてきて大変だっただろうし、ゆっくり楽しんでほしい。……できるならセーターかカーディガンを編んで欲しいけど、それは仕事じゃないし……)」
ルーファの言葉に、自分の気持ちを声に出せなかった。純粋に私を心配してくれているのに、これ以上しつこく『仕事がしたい』とは言いづらい。
でも仕事や、やることがないと私がここに居て良いのかと不安になる。八年前なら呑気に喜んだだろう。でも王宮で暮らすために、日々努力と成果を求められてきた。その感覚、呪縛が抜けきれない。
たぶん、自分の力で生きていこうって思っていたのにルーファにおんぶに抱っこで、独立国宣言までさせて、魔王になった。
そこまでして私を守ろうとしてくれているのに、今の私には何も返せていない。……対等でいたい。そう思うから、今の立ち位置がこんなにも不安になるんだわ。
「団長! バレテレミー家が面会を求めております」
黒い軍服姿のローが転移を使って姿を見せる。いつみてもビックリするわ。
それにしても面会って……。公爵?
確か──。
「ん? ああ、そんな時間か。……セレナ、リズを呼ぶから君はこのままここで作業するか、カフェでお茶をしていてもいい。今までの激務で大変だったのだから、のんびり羽根を伸ばしてくれ」
途端に領主、魔王のような貫禄のある顔を見せる。その雰囲気が変わることにドキリとする。去り際に頬にキスをするのはルーファらしいけれど。
それにしてもバレテレミー公爵家って確か、元婚約者の……? 面会って一体どんな内容なのかしら?
気にはなったけれど、なんとなく聞けないまま時間だけは過ぎていって忘れてしまった。
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