第13話 頼りになる幼馴染、いいえ恋人です

「セレナ!!」

「セレナーデ!」

「お父様、お母様……」


 久し振りに見た両親は無愛想ではなく、朗らかで明るい印象だった。お父様に関しては涙腺が崩壊したのか、さっきから泣きっぱなしだ。

 白の軍服に金髪で浅黄色の瞳、肩と腰回りに三対六翼のある両親はどこからどう見ても天使族で、それに引き換え私は黒髪で赤い瞳。今だって翼だって腰だけしかない。


 隣でニコニコしているルーファのほうがよっぽど親子に見える。昔はそれが何だか嫌で、帽子を被っていた。両親ともあまり会話もなかったと思う。

 だから会うと言われてドキリとしたし、どんな顔していればいいのか、正直分からなかった。実際にあったら、拍子抜けしてしまうほど両親は普通だった。

 子供を思って泣いて、抱きしめてくれるどこにでもいる親だ。幼い頃とは違う?


「ずっと傍にいて、王都に行ってもまたすぐに会えると……そう思っていたの」

「寂しい思いをさせて、本当にすまなかった」


 両親から抱きしめられるのも八年ぶりだ。両親に愛されていたと実感して、視界が歪む。


「……ルーファから……聴いたのだけれど、手紙を送ってくれたって」

「会いにも行ったわ。でも……」

「お前が会いたくないと……」

「そんなこと! ……そんなこと……言ってない」


 ずっと鳥籠の世界で、両親が来るのを待っていた。誕生日、年始め、式典、パーティー会場、お茶会……。でも招待状リストに両親の名前はなかったし、手紙もなかった。

 だから捨てられたのだと、私の髪や瞳のせいだと考えないようにしていた。損得勘定が常で、表情があまり顔に出る人たちじゃなかったのに。


「お前がいなくなってから、屋敷はすっかり変わってしまった。……その時に、いつもお前が明るく私たちに声をかけていたことが、どれだけ心を癒やしていたのか、救われていたのか、失ってようやく気付いた」

「それなのに私たちは……良い母親、父親らしいことを、なにもしてあげられなかった」

「お父様、お母様……」

「「だから『セレナーデを見守る会』を作ったのよ(だ)」」

「お父様、お母様……」


 なんだか脱力してしまった。私の涙と感動を返して欲しい。どうしてルーファといい、明後日の方向にベクトルを向けてしまうのだろう。そこは両親権限を使って、会おうと努力して欲しかった。それとも両親と会わせると不都合だと思って、王家が手を回していた?


「こんなに可憐な子に育つなんて……双眼鏡や魔法写真と解析度が全然違うわ」

「ああ、映像よりも実物が数千倍可愛い! そのうえ、こんなに愛くるしいなんて!」

「…………」


 両親の口にする発言じゃないと思う。ルーファはにっこにっこで、自分だけが変じゃないとアピールしているかに見える。いや君が変態なのは一ミクロンも変わらないからね。


「せっかくなので、食事会の準備もしています。家族水入らずで、話したいこともあるでしょう」

「まあ!」

「素晴らしい」

「(嬉しい気遣いだけれど、久し振りすぎて何を話していいか分からない!)……ルーファは?」

「僕は破損した階層の修復具合を見てこようと……。セレナ、もしかして離れるのが嫌?」

「うん……できれば一緒にいて……ほしい」

「そっか。だよね──大丈夫、セレナが呼んでくれれば────え」


 ペラペラと決まっていたセリフを述べていたルーファが硬直する。数秒ほど本当に呼吸も止まっていた。起動したかと思ったら、顔を真っ赤になった。


「え、ええええ!?(寂しい? 僕がいないとダメ? 傍にいて欲しい? なにそれ、すっごく嬉しい。僕をもっと求めて欲しいけど、強引すぎるとセレナはどん引きするだろうし、セレナコレクションのある部屋には、絶対に気取られるわけにはいかない。特別階層を作って切り離しておこう。今まではセレナを感じたくてあの部屋を用意したけれど、今は本物が息の掛かる距離にいる。ああ、昨日も安心しきって眠っちゃって可愛かったな。まだ恋人一日目だから見えないところにキスマークを付けたけど、虫除けを牽制するためにも、時間をおいて首元に……それとも胸元? うーん? どっちも良い。どっちも付けたいな。でも、まずはセレナが安心して生活できる環境と、元気を取り戻すように尽くすこと。尽くして、尽くして……いろんなセレナを見せて欲しい。奪われた八年間の全てを取り戻すためにも、セレナの願いはできるだけ叶えたい)セレナ、嬉しいよ! 結婚式は盛大にしようね」

「何がどうなって、その結論になったの!?」


 やっぱり変態の思考はわからない。それでもルーファが嬉しそうに笑うのを見てしまうと、胸がキュンとしてしまう。うう、やっぱり狡いわ。

 八年前の忘れていた感覚、記憶、心が息を吹き返す。心なしか背中が楽になった気がする。この時、私は自分に二対四翼があることを知らなかった。

 腰に一対二翼だけだと思っていたのだけれど、実は背にもあった。その翼は王国中を包むように広がって展開していたらしい。それを知ったのは、王国に張り巡らされた加護が完全に消滅した後だった。

 その結果、王国の各地で問題が次々起こるのだが、私が知るのはもっと後で、王太子たちが面会を求めた二ヵ月ことだ。



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