第8話 ギャップ萌えは嫌いじゃない・前編
「とりあえず、私の加護(?)がすごいというのは分かったとして、それがどう転んで魔王化して独立宣言したの? 王家だけじゃなくて、無闇に法王国や帝国を煽る必要はないんじゃない? 三国が結託して攻め込んできたらどうするの?」
ホワホワしていたルーファが途端に凛々しくて威圧たっぷりの魔王様にシフトする。
グッ……ギャップ萌え。嫌いじゃない。
「攻め込んで来るなら、返り討ちにするだけだよ」
「全然大丈夫じゃなかった! 魔王らしいけれど! 武力は最終手段よ!」
「うん」
「(あ、これ超絶笑顔だけど、絶対に武力でなんとかする気、満々だわ)ルーファ」
「まあ帝国は馬鹿じゃないから使者を寄越すかもだけど。……王家は君を失ったことで、国内の加護全体が低下。それにより病や怪我の治りが遅くなるだろうし、作物も不作が続いて困るだろう。害蝗も君がいたことで我が国は被害を免れていたけれど、それももうなくなる。第二王子を含めた連中がどれだけ盛り返すかに掛かってくるな」
「(……え? 私の加護ってそんな効果があったの??? 知らなかった)……へ、へぇ」
「王妃教育で培われた知識と経験、そして新規事業も君が指示を出していたんだ。いなくなったことで、王家は既に満身創痍だろうね。どんな形であれ君を国内に留めておく必要があったのに、愚かにも強権を発動させた」
「わ、私結構貢献していたのね」
「君があの国を《地上の楽園》にしていたんだよ。……まあ、王国の内情はこんな所かな」
「だからどうあっても王国に留めたかった。……法王も同じ理由なの?」
ルーファの眉が吊り上がり、ゴゴゴゴッと不機嫌さが爆発した。その場が一瞬で凍り付き、お茶を準備しようとした部下が、ティーカップを落として割ってしまうぐらい凄まじい。
「る、ルーファ?」
「ごめん。思い出したら不快で……」
「そんなに!?」
「法王は君を体内に取り込むことにご執心だったからね。手っ取り早く戦争仕掛けるか、不意をついて単身で乗り込んで来るかも」
「へ? 取り込む? ご執心??」
「そう」
ルーファは私の黒い髪を一房触れてキスをする。さらっと何するの!?
心臓がバクバクして思考が鈍くなってしまう。ルーファのことを直視できない。
「真っ赤になって、可愛いなぁ。八年前は僕が引っ付いても顔を赤くしなかったのにね」
「それは……異性と、こんな風に近い距離で話したこと……なかったから」
「当然だよね。もし僕以外にこの距離を許していたなら殺さなきゃ」
ドン引きするほどルシュファの目が怖かった。瞳孔が開いているし! 圧が凄まじいわ。羽根もビリビリと空気の震えを敏感に感じている。
「いないよね?」
「る、ルーファ以外にいないわ!」
「うん!」
ぱああ、と途端に笑顔になる。し、心臓に悪い!
「……君はね、三国にとって、とっても美味しくて都合が良い存在なんだ。君がどの国にいるかで盤上は大きく変わる。差し詰め戦況を大きく変えるクイーンの駒とでもいうべきかな。王家と帝国は、その力を手中に収めないと思っている。法王は……単なる変態的な趣向なので、確実に潰すけど」
「(法王が変態って……それは全力でスルーするとして)王国と帝国は私の力を利用したいと思っていたのね。政治的道具として欲していたのなら、今回のパーティー参加者リストにも納得だわ。独身者が多かったのも、私が婚約解消によって王家と縁が切れるタイミングを虎視眈々と狙っていたのね……」
自分で口に出して急に恐ろしくなった。あの場にいた全員が私の持つ力を狙っていた。ルーファが来なかったら、法王国と帝国はどう動いていたのかしら?
「だから八年間、セレナに会うことすらできなかった。騎士になってからは、遠目で元気な姿を見るぐらいだったし……」
「王宮でも居住区画で過ごすことが多かったのも、情報や他の人たちの接触を排除するためだったのね……。私はいずれ婚約破棄されると思っていたから、そこまで深刻に考えていなかったわ」
確かに甘かった。
婚約の条件があったとは言っても、この世界は王族が黒を白にすることだってできてしまう権力を持っている。こちらが正当であっても、事実を歪めてしまう荒技だってやってのけてしまうのだ。
そう思うと今更ながらにゾッとした。ルーファの胸元に寄りかかって、不安を紛らわせようとしたけれど、その前にルーファが私をギュッと抱きしめる。
「……ここに来た時点でもう何も心配はいらない。この要塞に入り込むには、それなりに大変だからね。君の両親もすでに別区画にいるから後で会わせるよ」
「両親が!?」
「うん。八年前から色々考えて準備してきたんだ。もっとも魔王になったのは、ちょっとだけ予想外だけど」
「ちょっとなのね……」
「うん。でも君を守り切る力を手にしたのだと思えば得だったかな」
「ルーファ」
「早くセレナと結婚したい。イチャイチャもしたい」
「ルーファ!?(心の声が漏れまくっているけれど!?)」
まだ色々話したそうだったけれど、どっと疲れてしまったので話は明日となった。両親は急な来訪者でバタバタしているらしく、後日会うことに。
来客って誰かしら?
少し気になったけれど、その後は軽食とお茶が出てきたのでうやむやに。お茶を飲みつつ聞こうと試みたけれど、まさか食事中も膝の上スタイルを貫くとは思っておらずあれこれ話している間に完食。
それからルーファが愛を囁き、ひたすらハグとキスで引っ付いて気付けば湯浴みの時間になっていた。
うーん、色々誤魔化された気が……。まあ、一度湯に浸かってリフレッシュしてから考えましょう。などと暢気に考えていた。
既に色々なフラグが立っていたことの、ツッコミ疲れた私は気づかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます