第3話 約束の婚約解消──ではなく破棄?・後編
エルガルド様と私の頭上に一枚の羊皮紙が姿を現し、虹色の炎によって燃え尽きた。
周囲はその美しさに見惚れているが、私はモヤモヤしていた。
んん? なんで婚約
「それでは失礼します」
最後にもう一度カーテーシをとって踵を返した。これで大手を振って王宮を出られる。そうウキウキしていたが──。
「待て、セレナーデ。これで婚約破棄は完了したが、君にはユリアの教育係を頼みたい」
「は?」
「セレナーデ様、よろしくお願いします」
「は??」
この馬鹿王太子、頭大丈夫かしら?
ふぅー、と呼吸を整えて聞き返す。その間、後ろにいる国王陛下、王妃は黙ったままだ。国の恥をこのまま放置するのは、愚か者かそれを覆す切り札がある? そんなものないはず?
「殿下、何を言っておられるのですか? 今回の婚約はあくまで番様を見つけるまでの仮の婚約。そしてそれらを受ける条件として、婚約解消後は王家と関わりを持たないとしておりますわ」
「婚約解消、ならそうなるだろう。だが婚約破棄となれば話は別だ」
「はい? 別もないにもないのだけれど? え、本当に頭大丈夫かしら?」
「セレナーデ!」
「おっと本音が……。でもその程度の屁理屈では意味をなしませんよ。契約は契約ですわ」
「そもそも契約時にそのような条件はなかった! でしょう、父上、母上」
「は?」
まさかの力技。
いや馬鹿だと発言したようなものだ。国王陛下は「いや……」と口を挟もうとしたが、それを遮ったのは王太子を溺愛している王妃だった。王家が黒のものを白といえば覆る。しかしそれは根回しと証拠諸々全てを黙らせるだけの力と根回しがあった場合だ。
「ええ! 婚約時にそのような条件はなかったわ!」
うわっ、言い切った。嘘を貫けると本気で思っているようだ。確かに契約そのものは履行されて燃え尽きたが、その内容証明は神殿にある。神殿もグルだった場合、多少面倒だが各両家にも控えがあるので正すことはできなくはない。もっとも実家が抑えられたら、勝ち目は途端に薄いが……。あれ、もしかしなくても詰んだ!?
「君が王妃教育を受け続けてきた能力が役に立つのだ。光栄なことだろう。それに君が望むのなら、側室にしてやっても──」
ヒュン、と空を切った音がした直後、近衛兵が飛び出す前にエドガルド様のケープに漆黒の槍が突き刺さり、その勢いに引っ張られて壁まで激突。
凄まじい音を立てて、壁に巨大なクレータができあがった。
「きゅう」
「きゃああ! エドガルド様ぁあ!」
「エドガルドちゃん!?」
「近衛兵は何を──」
今の槍ってどこから!? 襲撃!?
周囲を見渡すが、それらしい人物は見当たらない。
「
漆黒の槍がパーティー会場全員の影に突き刺さった。
バチンッ、という音と共に衝撃が走る。法王と皇帝は独自の魔法陣あるいは術式を展開して、漆黒の槍を回避していた。
国王と王妃のところにも王宮魔導士の展開した結界で弾こうとしたが、アッサリと貫通して影に突き刺さる。
国王と王妃たちだけ槍の強度が違う!? それとも王宮魔導士の質の問題?
ガシャン!!
頭上のガラス窓を突き抜けて漆黒の
ガラスの破片は私の加護で当たらなかったからよかったけれど、普通なら大怪我だったわ!
「……」
「──っ!?」
背丈は百八十センチ前後とかなり長身かつ細身の甲冑だが、溢れ出る殺意に全身が凍り付いた。しかし黒衣の騎士目が合った途端、殺意が霧散する。
え、なんで?
「あ……。君に敵意を向けるつもりはなかったんだ。ごめん」
「……い、いえ」
漆黒の
途端に大きな犬は落ち込んでいるように思えてきた。なんか懐かしい。
ん? 懐かしい??
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます