第26話 猫>人間
「捜査の基本は足だ」
刑事ドラマで、渋いベテラン刑事がよく言っていたこのセリフは、テクノロジーが変化した今はネタとして使われることも多くなった。
しかし、警察のような様々なプロフェッショナルがいる組織と違って、星田探偵事務所は、たったの3人で回している。
白井がテクノロジー関連に詳しいが、星田と相馬が充分に使いこなせないであろうと、起用を先延ばしにしている。2人とも、頭を動かすより身体を動かす方が性に合っているのだ。
「お。いたよ」
そんな、昔ながらの操作方法をすること3時間半、お目当ての猫を見つけた。
(‥‥‥本当に見つかるとは)
小さな公園の草むらにターゲットの猫はいた。こちらは疲労困憊だと良い気なもんだと倉科は心の中で毒づいた。彼は一生ペットを飼うべきではない性格をしていた。
その一方で、原始的なやり方を小馬鹿にしていた倉科は実際に見つかったことを意外に思う。
「一応、動物については勉強したんだ。お手本を見せるからそこにいて」
相馬はそっとした声で言う。猫を刺激させないためだろう。
「へぇ‥‥‥」
元はやる気のない倉科だったが、この先輩の仕事ぶりを見学したいくらいの興味は出てきた。邪魔にならないように入り口の隅による。
リュックの中から水鉄砲を取り出した。小さなもので、100円ショップでも買えるくらいのちゃちいものだ。
「猫は、水を嫌がる」
ピュンピュンと猫の手前に水を発射する。
当然ながら猫は逃げ出す。捕まえるのに、何故距離を開けるようなことをしているのか疑問に思った倉科だが、彼も地頭は良い方だ。すぐに答えに辿り着く。
(逃してるんじゃなくて、誘導しているんだ)
大嫌いは水から逃れるために、必死にトイレの裏に逃げ込む猫。
(あぁ。確か動物って恐怖を感じたら暗いところに逃げ込みやすいんだっけ‥‥‥まあ、人間もそうか)
倉科は自分が家族から逃げるために、暗い裏社会に逃げた。今の猫と同じようなものだ。いや、猫は可愛いが倉科は可愛くない。よって、猫の方が高尚な生き物と言える。
しかし、追い詰めたは良いがトイレと壁の隙間は狭くて相馬は入れなさそうだ。また、時間勝負かと思いきや、あのアイテムが登場した。
(‥‥‥餌か)
依頼人から預かっていた、いつも食べているチャオチュールの皿を置く。
「ほれほれ。出てきなー」
「ニャ! ニャ!! ニャ!!!」
よほど、お腹が空いていたのか、テンションを上げながら出てくる猫。
「よーし。良い子だ」
そう言いながら、首根っこを捕まえる相馬。
「いや、持ちかた雑じゃないですか?」
1仕事終えたようだったので、口を挟む。
なんか、伸びてる。縦にビヨーンと伸びている。間抜けだが妙な可愛らしさがある。
本来なら、リラックスした状態でお尻からゆっくり抱く方が良いのだが、初対面だから仕方がない。
その持ちかたのまま、公園の入り口に向かいながら説明をしてくれる。
「『つまみ誘発性行動抑制』っていう、猫が落ち着く持ち方なんだって。慣れてない人間が普通に触ると高確率で引っ掻かれる。これが1番安定するんだよ」
「ほう」
知らない情報が出てきたことに、倉科は自然と目を見開く。この男の知的好奇心は強い。
その情熱を、ストーカーどは別のものに向ければ大物になれる才能は持っているのだ。
「どう? 探偵に興味出た?」
笑顔で聞いてくる相馬とは対照的に、倉科は答える。
「‥‥‥まあ、少しは」
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