第24話 普通に美味いアイスコーヒー
「‥‥‥ここは?」
倉科が目を覚ましたのは薄暗い、誇り臭い部屋のソファだった。
起きあがろうとしたが、全身が痛んでそれすらもできない。
「起きましたか。安藤さんから1発もらったにしては早いお目覚めですね」
視線だけ右に動かすと、書類仕事らしきことをしている若い女性がいた。
ピシッと着こなしたスーツに、綺麗な黒髪ロングの彼女は、バリバリ働くOLに見えた。しかし、ここはどう見てもも丸の内のオシャレ会社ではない。
(何者だ?)
人一倍警戒心の強い倉科は、相手の出方を出ることにした。しかし、いくら待っても女性は書類仕事をするのみで、話しかけてくる気配すらない。
(あぁ。この人は俺に興味がないんだ)
稀にいるのだ。特定の誰か以外は全員、道端のゴミと同じくらいの価値しか見出せない物が。その反面、1度心酔したら死ぬまで対象を愛し続ける。
話しかけてこないはずだ。
何故なら、この女性にとって倉科は石ころでしかないのだから。
(仕方ない。俺から動くしかないか)
黒幕体質の倉科からしたら屈辱を感じたが、今はそんなプライドよりも情報の方が大事だ。
20分ほど前に、目覚めた倉科に「早いお目覚めですね」と感想を述べていた。よって、この女性は石ころに話しかける危篤な人間の可能性が高い。
「あの、ここはどこなんでしょうか?」
「探偵事務所です」
必要最低限は答えてくれた。コミュニケーションを取れる相手と分かっただけでも倉科の気持ちは楽になった。
「何故、私は探偵事務所にいるのでしょうか?」
「安藤さんの依頼だからです」
(‥‥‥やはり、安藤昌哉か)
「我々のお得意様の依頼なので、貴方のようないけ好かないガキを保護してあげたんですよ。感謝して下さい」
「‥‥‥それは、どちらかというと安藤に言うべきことじゃないですか?」
「ん。あぁ。そうですね。一本取られました」
そう言う割に、全く悔しそうに見えない。相変わらず冷めた表情をしている。
まあ、少しの毒舌を浴びたが状況は分かった。
(安藤は俺をボコした後、この探偵事務所に運んだわけだ)
(救急車を読んでいないところから、さすがに国家規模の後ろ盾は無いと考えるのが妥当だろう。‥‥‥っていうか、そうであってほしい)
ガチャっ。
そこまで考えると、ドアが開く音が鳴り響いた。
「ただいま」
「恵さん!」
現れたのは星田探偵事務所の所長、星田恵だ。
「喉乾いた。白井、申し訳ないけどアイスコーヒー作ってくれるか?」
「はい!」
OL風の女性は白井というらしい。
先ほどまで、眉1つ動かさないロボットのような白井は、嬉しそうにキッチンに向かう。
態度の差が露骨すぎて、笑ってしまいそうになる。
(この人には興味があるのか。いや、この人にしか興味がないのか)
「あ。君も飲むか? 白井の作るアイスコーヒーは普通に美味いんだ」
普通は余計なんじゃないかと思ったが、この人にツッコミをいれて白井の逆鱗に触れたら困る。ここはおとなしく御相伴に預かることにした。
「はい。お願いします」
「あいよ。白井! 2杯分な!」
「はーい!」
ラーメン屋みたいなやり取りをする2人を見て、倉科は羨まく感じた。
(友達って、こんな感じなのかな)
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