第23話 勘違い
「‥‥‥僕に何か用でも?」
安藤昌哉は、人によって1人称が変わる。
心の底から信頼している師匠には「俺」、学校などの仕事関係者には「私」。
そして、今使っている「僕」は敵に使う1人称だ。
途中から人生相談になってしまった元ホストとの会合を終えて、帰途についついる途中に倉科に声をかけてられた。
「えぇ。貴方は興味深い。少しお話をさせて頂けませんでしょうか?」
絶対に嫌だ。
この若者とは関わるなと本能が告げている。
「申し訳ない。今日は体力の限界でね。家で休みたいんだ。いやー。歳をとるとちょっとしたことで疲れちゃって参っちゃうよ」
「そうですか。お身体は大事にされた方が良いですよね。でも、良いんですか? 殺し屋時代の情報バラまいても」
「良くはない。しかし、それは君にもリスクがあるんじゃないか? あいつらに関わると面倒臭いぞ。1度共闘しただけで親友面する連中だ」
「大丈夫ですよ、そこは巧いことやります」
若さ故の根拠なき自信‥‥‥だけでは無さそうだと安藤は悟る。それなりの数の対策を準備している者が持つ余裕だ。
「だから、俺の要望を飲んだ方が、安藤さん的にも楽だと思うんです」
「そこ要望ってのを先に聞いても良いかい?」
「もちろんです」
少し大袈裟に頭を下げる倉科は、胡散臭さの塊だ。しかし、人によっては気障な態度を気にいるのもいるのだろう。
「俺の要求は1つです。里中杏奈を指導しないで下さい」
「好きなのか?」
「違う。これは、もっと高尚な感情だ」
揺さぶりにも乗ってこない。
(面倒くさいなぁ)
そんな、60代男性にしては可愛らしい感情になる安藤。
(あぁ。もう帰りたい。そろそろ風呂を沸かさなくてはならない。せっかく今日は1日中師匠と一緒中いられる貴重な日だったのに)
休日のせいか、仕事モードよりも思考が雑になっている。もう、この少年の言う通りにしてしまおうと2回くらい考えた。しかし、結局は職務を全うすることにした。
「残念だけど、無理だよ」
「‥‥‥何故?」
「一応は校長だからね。里中さんを見守るのも職務に含まれる。僕なんかを拾ってくれた学校だ。給料分の仕事をする気味がある」
「‥‥‥なんだ。アンタは俺と同じタイプだと思ったのにな」
「人間はタイプで分けられるほど簡単な生き物ではないよ。ムカつくことに」
「‥‥‥はぁ。じゃあ、捨て駒を使っておこうかな」
倉科が背を向けた瞬間、電柱の後ろや家と家の隙間に潜んでいた30人ほどの若者が一斉に襲いかかる。
「こんな連中で殺せるとは思ってないよ。でも、思ったよりアンタは教育者としての誇りがあるみたいだ。何の役にも立たない、邪魔なプライドがね」
若者達は、おそらく高校生くらいだ。つまり、教え子と同じ年代の子供だ。
「そこを利用させてもらうよ」
倉科は、未来ある若者に深い傷を与えないように手加減をして手こずっているうちにトンズラしようさているらしい。
ドコッッッッッ。
余裕を持って歩き出した倉科の背後から聞こえてきたのは、容赦のない暴力の音だった。
「‥‥‥何か勘違いしているようだけど」
1人1人、1発KOをしながら、安藤は低い声で呟く。
「僕の保護対象は川井高校の生徒のみだ。他所のガキなんてどうでもいい」
まるで、皿洗いなどの単純作業を淡々とこなしているかのように、30人の捨て駒は倒していった。
残るは、倉科のみ。
「黒幕を気取ってるとこ悪いけど、君には、ここで退場してもらう」
拳を振り下ろす。
倉科は、1歩も動くことができなかった。
「ごめんな。君は危険だからさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます