第22話 SNSを使いこなす72歳
夏休みは、基本的に楽しいものだ。しかし、気をつけなければならないものがある。
非行や犯罪だ。
暇を持て余した学生達は、学校に縛り付けられる日々から解放されて、いささか奔放になる。
1学期最終日に担任が「くれぐれもハメを外しすぎないように」と注意喚起をするのはこのためだ。誰も聞いちゃいないが。
だから、学校の責任者である安藤は夏休みこそ気が抜けない。そこそこの偏差値を誇る川井高校だが、そんなものは、夏の魔力の前ではクソの役にも立たない。
「安藤。これ見てくれ」
「はい?」
昼頃にそうめんを食べ終えて、食器を洗っている安藤に師匠が言う。
「これ終わってからでも良いですか?」
「もちろん良いけど、お前んとこの生徒さんがXに載ってるぞ」
洗い物を中断して、早歩きで師匠が横たわっているベッドへ向かう。
「なんやかんやで、お前も生徒思いなんだなぁ」
「違います。問題になるのが面倒なだけです」
「その性格、損するだけだから治した方が良いぞ」
軽口を叩く師匠が掲げるスマホ画面を見る。
<これから、ナンパしたJKとお楽しみでーす>
その文字列の下には、顔をモザイクをかけた女子高生と、軽薄そうな男の写真が記載されていた。
「確かに、ウチの高校の制服ですね」
「だろ? で、私も気になって、こいつのポストを遡っていったのよ。そしたら、結構痛い奴でさ。」
師匠は72歳と年齢的には若くないが、SNSなどの知識は安藤よりも強い。
お笑いオタクである彼女は、テレビやラジオだけでは物足りなくなり、YouTubeやサブスクを利用するようになった。
その結果、SNSの使い方も覚えて、推しの芸人のポストをチェックするようになる。安藤がTwitterがXに名前が変わったという情報を与えたのも師匠だ。
「痛い? 女遊びが激しいとかですか?」
「うん。数年前まではホストだったらしいんだけど、店の空気を悪くしすぎてクビになったんだって。今は女性の元を転々としてる。まあ、要するにヒモだよ」
(こんなに簡単に個人情報を得られるとは。SNSってのは便利だな)
写真の背景から察するに、池袋のサンシャインシティだろう。
「ちょっと、心配なんで行ってきます」
「この子、顔写ってないけど誰かは分かってる?」
「はい。2年3組出席番号2番、相沢心です。顔が隠れていても、骨格で誰かは分かります」
「うわー。やらしい」
「貴女が教えてくれた技術でしょうに」
\
30分後。
「すみませんでした!」
「いや、分かれば良いんだよ」
池袋サンシャインシティのカフェテリアで、安藤も元ホスト、古川慎介は和解していた。
「君も大人だから、自由に恋愛すれば良いけど、未成年はダメだよ。色々面倒くさいからね」
「ウスッ」
\
「‥‥‥」
相沢心を帰らせて、数分前まで殴りかかろうとしていた元ホストとカフェで喋る校長の姿を別の席から観察していた倉科は思う。
(厄介だな)
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