第7話 滝沢花凛は惚れっぽい
「誰か、顧問してくれるセンセーいないかなぁ」
お昼休みに、ちとせはいつものメンバーでお弁当を食べていた。
母親特製の卵焼きを口に運んでいると、大橋桜がため息混じりに呟いた。
「あぁ。演劇部の顧問がバックれたんだっけ?」
ちとせが所属する放送部と演劇部は、活動内容が被るところがあるので絡みも多い。だから、この問題はちとせとも関係があるのだ。
「そー! なんか、家にもいないらしくて、本格的な失踪なんだよね‥‥‥。心配だよね‥‥‥。でも! とりあえずこっちは部活の存続について考えなくちゃいけないのよ!」
恩師を心配する気持ちと、己が受けている迷惑がゴッチャになっている。
少し騒がしい印象を受ける桜だったが、ちとせはこの子のことは嫌いではない。
「ほれほれ。気持ちは分かるけど落ち着きなさいチョップー」
「痛いなぁ。何すんのよ杏奈〜」
「桜ちゃん‥‥‥大変だよね。私の唐揚げ食べる?」
「摩耶ちゃん‥‥‥お弁当の主役をくれるなんて、なんて優しい子なの‥‥‥! じゃあ、半分こしようね」
「うん」
今、チョップをしたのが里中杏奈。
唐揚げを渡す提案をしたのが平子摩耶だ。
この3人は部活も一緒で、一際仲がいい。ちとせは密かに、桜を中心とした百合関係なのではないかと疑うくらいに。
「相変わらず3人は仲がいいねぇ」
その様子を見て、ヘラヘラしているのが、ちとせの親友である滝沢花凛だった。
先日、ちとせが危ない目に遭いかけて安藤に助けられたことは説明してある。その上で、心配かけたことへの謝罪もした。
「もう! そんな危ないことになる前に、これからは早めに相談すること! 良いね!?」
「はい‥‥‥」
愛故の叱責をもらい、心が温まる。しかし、次に花凛は聞き捨てならない発言をした。
「それにしても、生徒のピンチに颯爽と現れて助けちゃうとか‥‥‥安藤さんって格好いいよね〜」
恐る恐る、花凛の表情を見てみると、完全に恋する乙女のそれだった。
出た。花凛の恋愛体質。
小学生の頃からの付き合いだが、花凛はとにかく惚れっぽい。小学生5年生の時なんか、クラスメイトの男子全員に恋をしていたレベルだ。
ドッジボールで守ってくれたことから始まり、落とした消しゴムを拾ってくれたとかいう理由で好きになってしまう始末だった。
高校生になり、多少落ち着いてきたと思っていたら、今度は教師‥‥‥しかも校長ときた。ちとせは頭を抱える。
「あれ? ちとせ大丈夫?」
花凛と百合空間から戻ってきた3人に心配されてしまった。ここは話題を逸らさなくては。
「大丈夫大丈夫。ってかさー。顧問の件なんだけど、二月先生とか、まだ空いてるんじゃない?」
「あー! 二月先生! その手があったか!」
残りのお弁当を一気にかき込んで、桜は立ち上がる。
「早速、お願いしてくるわ!」
思いっきり、廊下をダッシュする桜。
遠くから教師の声で「廊下は走らない!」と小学生のような注意を受けているのが聞こえて、ちとせ達4人はカラカラ笑った。
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