第16話 リンナという少女
「あ~~っ! クルセイド様じゃん! こんなに速攻で会えるだなんて、あたしってばついてるな~!」
店内に女の子らしき甲高い声が響く。
お店の入り口から聞こえたその声に、一瞬店内の視線が女の子に集まる。私も思わずその子を見てしまう。
その子は、店内中の視線を浴びても堂々と振舞っている、派手な外見をした少女だった。
リングライト修道共和国では珍しいピンク色の髪をツインテールにしており、やや濃いめのメイクもばっちりときまっている。
顔立ちは綺麗さもあり可愛らしさもありで、二重の瞳がチャームポイントになっていた。
なんとなく、自分の魅せ方を良く分かっている子だな、という印象を受ける。伯爵令嬢の中でもとても地味な方な私とは、正反対だ。
「見て見て! 今日はあたし、クルセイド様とのデートの日だから、普段より可愛い格好が出来るように頑張ったんだ。いつもは地味な服ばっかりだから、たまにはお洒落したいじゃん? クルセイド様はいつも私を可愛いって言ってくれるから、今日も褒めてくれるよね?」
マシンガントークと言わざるを得ない勢いで言葉をまくし立てつつ、女の子は私たちのテーブルへとずんずんやってくる。
もう既に店内の視線は大体が女の子から離れたが、今でもまだその子から目線が外せないようなお客さんもいた。それぐらい、女の子は魅力的な外見と振舞い方をしていた。
しかし、私はクルトの名前をその子が呼び続けている事に驚きと反射的に警戒心を持っていた。
この子は一体、クルトの何なんだろう?
クルトは女の子を見て、面倒そうにため息をつく。その様子をちらりと見て、オズさんは女の子の所へと走っていった。
「リンナ、いい子だから、今はクルセイド様の邪魔をするな。俺が向かいの店でお前の好きなパスタでもおごってやるから」
「え~? 何か怪しい。てか、その地味な女、誰? そんなリングライトのお貴族様臭い女とクルセイド様が何で一緒にいるの?」
私はその言葉を聞き、思わず驚いてしまう。
私は昨日は確かに家から連れ出された時の服から着の身着のままで行動していたので、見るからにお嬢様だったとは思う。
でも、今はクルトから貰った平民の服を着ており、オズさんからも「どこからどう見ても庶民ですね!」と言われたし、ここまでの移動でも誰からも何も疑われなかった。
自分の印象を聞いて回った訳ではないので分からないけど、恐らく私は庶民に完全に擬態出来ていた。それはそれとして複雑な気もするけど。
しかし、この子はどうやら私の正体を一瞬である意味言い当てた。
……もしかして、この子は相当な観察眼があるのでは……?
クルトは女の子を見て、何かを思案していたようだったが、ふっと悪巧みするかのような怪しげな笑顔になる。
そのままクルトは私の手を強引に掴むと、自分の膝の上に座らせた。
一秒前には予想もしていなかったクルトとの必要以上の密着に、頬は思わず赤くなってしまうし、体はこわばってしまう。
……え? いやいや、これ、どういう状況なの?
「リンナ、紹介しよう。この子の名前はサーシャ。俺が拐ってきた、俺の女だよ。アンダーボスの女になった以上、この子はどんな身の上であろうと、それ以上でもそれ以下でもない。俺が傅く唯一の人間だから、俺の部下である君もこの子を丁重に扱うように」
何かすごい事を言われているし、されているが、リンナさんと呼ばれた女の子は私たちを見て、今すぐ叫びだしそうなぐらいの東方で言う所の鬼のような形相をしていた。
私はこの後自分の身に待ち受けているであろう状況に、嫌な予感が止まらなかった。
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