第12話 過ぎ去りし夜の談話①
私がクルトに対してセミフィリアへの憧れを話したのは1年ぐらい前の事だったと思う。
自分からノリノリで語ったというよりは、どちらかというと話の流れで喋ってしまったという感じだった。
『お嬢様は寝る前にルイボスティーをよく飲まれますが、こちらは最近庶民の間で流行りだしたものですよね。まだ貴族の間ではそこまで浸透しておりません。お嬢様はどこでお知りになられたのですか?』
それを聞かれたのはちょうど寝る前、クルトにそのルイボスティーを運んできてもらっていた時だった。
確かにルイボスティーはリングライト修道共和国の貴族社会の間ではまだあまり浸透していないので、この事はいつか誰かには聞かれるかもしれないと思っていた。
私は寝る前にいつもクルトにお茶を運んできてもらっており、その際によく雑談をする。クルトは色々と話を振ってくれたりもするのだが、話題として無難かと思って選んでくれたのかもしれない。実際はフローティス家の中で話すのには結構難ありな話なんだけど。
しかし、その時の私はクルトを心から信頼していた為、躊躇いなく話す事に決めてしまったのである。
『ううん、まぁクルトになら言ってもいいかも。厳格に内緒にする程の事でもないのかもしれないけど、念のため他の人には話さないでね』
『……分かりました、誰にも話しません。私を信用してくださってありがとうございます』
『クルトは口が堅そうだもの。すごく信頼できるわ』
私はクルトの淹れてくれたルイボスティーを一口飲んだ後、少し言葉を選びながら話し始めた。
『私がルイボスティーを知ったのはセミフィリアに行くのが好きだといっていたレゾナンス領の一部を運営している男爵令嬢の子から、なの』
『レゾナンス領という事は……ひょっとして、我が家の旦那様が散々痛い目に遭わされては、サーシャ様のお姉様に返り討ちにされてるあの伯爵家絡みの方なんですか?』
クルトは流石に怪訝そうな顔になる。
レゾナンス領というのはそれだけ我が家では言ってはいけない言葉だった。
『ええ、その通りよ。どうやらその子はうっすら血のつながりがあるみたい。あの伯爵家とはそこまで密な関わりはないみたいだけど、だからといって深入りして付き合っていい相手でもないから、交友がある事はフローティス家の中ではあまり話さないようにしているわ』
『賢明なご判断です。我が家でレゾナンス領の話は禁句ですからね。まぁ旦那様だけに関して言えば、あまり気にされないでしょうが』
『あんなに痛い目に遭わされてるのに、父様は懲りないのよね。お人好しも過ぎると本当に厄介だわ』
私は思わず虚ろな目になってしまう。
父様は何度騙されても、レゾナンス領の伯爵家に対していまいち警戒心は薄かった。父様に対して何度も思った事だが、本当に呑気すぎではなかろうか。
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