4日目
朝目覚めてすぐにカブクワムシの様子を見に行く。
いつものごとくマットの中に潜っていて姿は見れなかった。が、夜中に相当暴れまくったようで、ケースの壁が糞尿らしきモノで汚れ、マットの屑がパラパラとこびりついていた。
そこで綺麗に掃除してやり、加水して、空になっていたゼリーを取り替えてやる。その際に登り木をどかして、カブクワムシの姿を探したい衝動に襲われたが、そこはぐっと我慢した。きっと貴重な昆虫に違いない。下手に触って死なせてしまったら取り返しがつかないし、プラスティック容器をかじった件もあるので、なるべく触れたくはない。
一通りの世話を終えると、思ったよりも時間が経っており、遅刻ギリギリの時間となっていた。朝食も取らず、慌てて家を出る。
その日の帰り、マンションの階段を自室のある四階まで上っていると、その途中の踊り場で一匹のクワガタを見つけた。コクワガタのオスだ。
それを捕まえると、そのまま部屋に連れ帰り、カブクワムシのケースへと入れた。
二匹を一緒に入れるのはどうかとも思ったが、カブクワムシがどんな反応をするのか見てみたかった。
空になっていたゼリーもついでに換えた。その餌にコクワガタは引き寄せられるかな、と思ったが、そうはならずに、人目を避けるように登り木の蔭へと隠れていく。
その奥にはカブクワムシがいるはず。何か動きがあるはずだ。
「……」
期待して見つめるが、静かなままだ。
「ふぅ~、夜中じゃないと動かないのか?」
しばらく見つめてそう諦めかけた時――
ドザッ!
登り木がマットのおがくずごと跳ねあがり、ゴロっとケース内を転がった。その下から奴が現れる。
黒光りする体躯。見事に伸びる頭部の角と左右の大顎(正確には顎ではないのだが、クワガタのそれと類似しているため大顎と呼称する)。
いまその大顎にコクワガタががっちりと挟み込まれていた。
「おおっ、凄いぞ!」
思わず興奮する。その目前で、更なる驚きの出来事が起こった。
角が生え、目や口、触角のある頭部が、ぐぐっと前に伸び、大顎に挟まれるコクワガタへ襲い掛かったのだ。その様子は口の中から第二の口を伸ばすエイリアンのようだ。
伸びた頭部は、コクワガタの腹部にがぶりと噛みつき、そのまま食べ始めた。
バリボリ、バリボリ……
「うっ――」
予想外の出来事とその光景のグロテスクさに、言葉を失う。
その間にもカブクワムシは、コクワガタの腹部を平らげ、残った胸部や頭部やその場に打ち捨てた。
一体何が起こったのか――頭の中が混乱し、事態を把握しきれない。
この生き物は何なのか?
結局、疑問はこの一点に収束する。
そんなこちらの混乱を尻目に、カブクワムシは再びマットの中へと潜り込んでいった。潜る寸前にこちらをチラリと見たような気はしたが、おそらく錯覚だろう。
「……」
その日はショックが大きかったので、その後カブクワムシの様子を見ることなく、いつもより早めに就寝した。
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