3日目

 朝起きて飼育ケースを覗くと、カブクワムシの姿は相変わらず見えなかったが、昆虫ゼリーが見事になくなっていた。


「おお、よかった」

 一安心してゼリーを新しいもの変える。そこで空になったプラスティックの容器の縁が、ギザギザになっているのに気づいた。


「カブクワムシがかじったのか?」

 まさか、と思ったがそれ以外に考えられない。となると、やはりただのカブトムシではない。プラスティックをこれだけかじれるとなると、下手に触るのも危なそうだ。


 月曜なので当然仕事があり、それ以上は考察するのはやめ、いつも通りの朝のルーティンへと入った。

 家を出る前にもう一度見てみるが、やはりその姿を確認することは出来なかった。



 夜、帰宅すると、見事にゼリーが空になっていた。今度は容器の縁は削れてはいなかった。それが食べられないと学習でもしたのか?

 霧吹きで水分を加え、ゼリーを新しいものと取り替える。


「……この虫は何なんだろうな」

 それらしいものがいないかとネットで調べたが、同じものはいなかった。一番似たモノといえばコーカサスオオカブトだが、胸から左右に伸びるのは角ではなく、可動する顎なのだ。


 やはり新種なのか?

 それとも遺伝子異常?

 もしかして、本当にカブトムシとクワガタのハイブリット?


 疑問を少しでも解消するために、もう一度はっきりと姿を見たいが、思うように出てきてはくれないものだ。

 結局、その夜も起きている間は姿を見ることはできなかった。


 ところが――


 夜中小便に起きた時に、ブンブンと飛び交う音がして明かりを付けて覗くと、やっとその姿を見ることができた。ケースに移して以来のことで、感激していると、すぐにマットの中へと潜って行ってしまった。

 ただ、元気である事は確かめられたので、安心して小便を済ますと再び眠りについた。

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