第11話 白石 美咲
美穂さんから娘の美咲ちゃんを紹介された。何というか、最近の中学生はみんなこんなにカワイイのだろうか?それともこの娘だけが特別なのか……そう思うくらいに美咲ちゃんはカワイイ美少女だった。こんなに可愛ければきっと学校でも人気者だっただろうに、どうして不登校になんてなってしまったのだろう?不思議に思ったけど、『どうして学校に行かないの?』なんて、いきなり本人には訊けない。まずは、時間をかけて美咲ちゃんとの信頼関係を作るのが先決だ。
「美咲ちゃん」
「伊東先生」
「あ、いや………美咲ちゃんの方からどうぞ」
「わたし、今まで勉強は一人でちゃんとやって来ました。家庭教師は必要無いと思うんですけど」
あちゃーっ!いきなり『戦力外通告』ですか?カワイイ顔してキツイんだから!
「ハハ……そうか、美咲ちゃんって頭いいんだね………でも、僕も君のお母さんから月謝貰ってるし、何もしない訳にはいかないんだよね」
「そうですか………」
なんか不満そうな顔してるなぁ………何か美咲ちゃんが興味を持ちそうな物って………
「美咲ちゃんって普段何をしてるの? 勉強以外では?」
「ええと、ゲームしたり、YouTube観たり………」
う〜ん………なんとも不健康な過ごし方だな………まぁ、想定内だけど。
僕は美咲ちゃんにある提案をしてみた。
「ねえ、美咲ちゃん。良かったら『水彩画』描いてみない?」
「水彩画?」
水彩画なら、僕は高校の頃から描いているし、これなら美咲ちゃんに教えられる位の技術もあるつもりだ。
「水彩画ってのはね………ちょうど僕の部屋に描いたものがあるから、ちょっと持って来るね」
僕は一度部屋に戻ると、水彩画を数枚持って再び美咲ちゃんの部屋を訪れた。
「はい、これが水彩画」
僕が渡した水彩画に、美咲ちゃんは思ったより食い付いてくれた。
「これ………先生が描いたの?」
「そうだよ。まぁ、プロの絵描きに比べたらずいぶんと劣るけれども………」
「そんな事ないよ。凄く上手く描けてると思う!まるで、写真みたい!」
「ありがとう。けれど、それがプロとアマチュアの差とも言えるんだ。ただ写真のように描くのであれば、写真を撮るのと変わらない。精巧に描きながらも、作者の主張や特徴を作品に持たせることが、絵を描く事の意味になるんだ」
「へぇ〜奥が深いんですね、水彩画って」
美咲ちゃんは、水彩画にずいぶん興味を持ってくれたようだ。
水彩画を描くには、もちろんやり方は人それぞれだけど、基本的にはその風景のある場所へと出向かなければならない。
つまり、絵を描く度に部屋を出て外に出掛けなければ出来ない趣味なのだ。
これは、不登校の美咲ちゃんを外に連れ出すのには絶好の口実になるんじゃないかと、僕は考えた。
外に出ないというのは、ただ、単に部屋から出たくないという訳ではないのだと僕は思う。
外に出たくないのでは無くて、外で人と接触する事に拒否反応を示しているのだろう。それなら、外に出てただ水彩画を描く事に没頭し、自分の世界の中にいられるこの時間は、美咲ちゃんにとってはさほど苦痛な時間でもなく比較的ハードルも低いのでは?と、思った。
とにかく、美咲ちゃんが水彩画に興味を持っている今がチャンスだ。僕は、あの手この手を使って美咲ちゃんを口説いた。
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