第8話 前世のような異世界

「それより君、これに住所と名前書くように言ったけど………これってどういう事かな? もしかして、本官ををバカにしてるのかい?」


「えっ? 言われた通りに書きましたけど、何かおかしかったですか?」


僕は警官の言っている意味が分からなかった。バカにしているって、どういう事だ?


けれど、警官は僕の返答に対してメチャクチャキレ出した!


「ふざけるなよおいっ!お前の書いた、こんな住所の土地はんだよっ!」


「そんな筈は無いでしょう? だってこれは僕の家の住所………」


「だから、そんな住所は存在しないんだよっ!」


何を言っているんだ、この人は………そんなバカな事がある筈無いじゃないか。………いや、待てよ?………


僕は考えた。暫く考えて、漸くこのばかばかしい現実に全て説明のつく、ある可能性にたどり着いた。


これは、昨日牧村が言っていた【イレギュラー】というやつに違いない。


おそらく、クマに追いかけられて逃げる途中に崖から転がり落ちた瞬間。


僕は気を失って、イレギュラーを併発し異世界へと飛ばされた。だから、死んでもいないのに、今この場所にいるんだ。


車だって、盗まれた訳ではない。


現世の山の麓の駐車場に停めた車が、異世界で消えているのはなにも不思議な事では無い。


そもそも、世界が違うのだから。そう考えれば、すべての辻褄が合う。


さて、これで全ての謎が解けた。あとはこの状況をどうやって誤魔化すか、だけど………


僕は、ポケットからスマホを取り出し牧村に通話している風を装った。


「もしもし、牧村か?お前さ〜オレの車に乗って帰っただろ?………あ、やっぱりそうか!勘弁してくれよ!オレ、車盗まれたと思って交番来ちゃったよ!じゃあ、車は今そっちにあるんだな?」


携帯でそんな【小芝居】を打ってから、警官に弁解をする。


「お巡りさん、すみません! どうも僕の車、友達が黙って乗って帰っちゃったみたいで、盗まれてなかったみたいです!」


「えっ、何?それじゃ君の勘違いだったの?」


「そのようです。どうもお騒がせしました!」


「まったく人騒がせな話だな!じゃあ、調書は破棄しておくから………気をつけて帰って!」


警官に『お小言』を言われながら、僕は交番を後にした。




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