第7話 イレギュラー

あれからどれくらい気を失っていたんだろう………


確か僕はクマに追いかけられて、そして逃げる途中で崖から転がり落ちて………


落ち着け………まず、クマはどこ行った?


僕は、辺りを注意深く見渡してみたがクマはどこにもいなかった。


きっと僕が崖から転がり落ちたので、追いかけるのを止めて山へ帰ってしまったのだろう。


次に………僕は果たして生きているのか?


自分でもおかしな事を言っていると思うが、なにしろ昨日【異世界転生】の話をしていたばかりである。


だから今は、心臓が動いていれば生きている。みたいな単純な判断がはたして正しいのか、よく分からなくなっている。


僕は、暫く考えた後にポケットからスマホを取り出して自撮りの写真を撮った。


そしてその写真を見る………


もしも僕が死んでいて、尚且つこうやって動いていた場合、それは異世界転生しているという事になる。


だとしたら、今ここにいる僕の姿は別人の姿をしていなければおかしい。


幸い、今撮った自撮りの僕はまぎれもない僕の姿だった。


という訳で、無事クマの襲撃から無事逃げる事が出来たようだ。僕は一安心し、水彩画の道具を仕舞いに駐車場の車へと向かった。



          *     *     *



いったい今日の僕は、どれだけツイてないんだろう。


クマに襲われ、崖から転がり落ちて、あげくの果てには………


車が盗まれていた。


駐車場に停めておいた筈の僕の車が、戻ったら見事に消えていたのだ!


いったい誰がこんな酷い事を!よりによって、なんで僕の車なんかを!どうせ盗むならもっと高級車を狙えばいいのにっ!


とりあえず僕は、盗難届けを出す為に近くの交番へと行った………


そして、僕はそこでとんでもない事実を知る事となったんだ………





「すいません、車を盗まれてしまったんですけど………」


最寄りの交番に行き、まずは警察官に車が盗難に遇った事を告げる。


「えっ、車を盗まれた?それは災難だったね」


警官は、それ程驚く様子でもなく僕に事務的な同情の言葉をかけると、机からバインダーを持ち出して調書をとる準備を始めた。


「あの、よくあるんですか?その……車の盗難事件って………」


「いや〜そんなにしょっちゅうは無いけれど、無い事は無いよ。たまにあるね。盗まれたのは、自宅?………あ、これに住所と名前を書いてくれる?」


「いや、すぐそこの山の麓の駐車場ですけど………」


「え〜っ!そこの駐車場って………そんな出先で盗難なんて、普通無いけどなぁ………」


「でも、さっきは無い事は無いって………」


「自宅ではね………自宅だったら、夜中から朝までとか、持ち主に気付かれるリスクの低い時間帯がある。けれど、出先の場合はいつ持ち主が戻って来るか分からない………そんなリスクの高いところで、車の盗難なんてやらないよ普通」


言われてみれば………だったらどうして僕の車は盗まれたんだろうか?





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