第6話 滑落
そして翌日、僕は山に登った。
山と言っても、家から車で二十分の駐車場から歩いて登って三十分で登れるくらいの標高の低い山だ。
その山を登って、一体何をするのかというと、絵を描くのだ。
僕は高校生の頃から趣味で水彩画を描いていて、それは今でも続けている。
だから、日頃から景色のいいポイントは時折チェックして時間のある時に出掛けていって水彩画に描くのだ。
今日のように天気がいい日は、まさに絶好の水彩画日和になるに違いない。
駐車場まで車で行って、そこから道具を降ろしてリュックに詰め込む。
そして、描くのに最適なポイントを探しながら山を登って行く。
暫く歩いて場所を決めたら、そこに立ち止まり四角い枠を描こうとする目標に重ねて見え方を確認してみる。
「そう、そう、こんな感じ…………………
って・・・・・・・ナンダ、アレ?・・」
最初、目の錯覚かと思った………だって、こんなのテレビかYouTubeの【衝撃映像】でしか観た事が無かったから。
* * *
今、目の前に見えている木の幹に寄りかかっているあの黒い物体ってきっと………
野生のクマじゃないのか………最近、よくクマが出没するって聞いたことがあるけど、まさか自分がクマに遭遇するなんて。しかも、バッチリ目が合ってるし。
もし、山中で野生のクマに出逢ったら、どうすればいい?
死んだフリをする?よく言うけど、それは間違いらしい。
大声と大きな音で、存在をアピールする!………それは出逢わないようにする対処法。では、実際に出逢ってしまったら?しかも、見たところクマの方はこちらを狙う気満々だったとしたら?
正解は………?
「逃げるしか無いだろっ!」
僕は山の麓に向かって全力で駆け出した!すると、一緒にクマも駆け出した!
クマって、あんなに速く走れるのかよ!いつもメチャゆっくり歩いてるのにっ!
「クソッ、こんな事ってあるのか!」
絶体絶命って、こういう時の事を言うのだろう。
何故って、この先の対抗策が僕には全く浮かんでこないから。
今まさに僕に襲い掛かろうとしているクマ………その距離は段々と近づきつつある。
それに対する僕は、ただ走って逃げるだけ………助けを呼ぼうにも、そばには誰もいない。
僕は、生まれて初めて死を意識した。もしも僕が今日死んだら、異世界転生の
1/12の狭き門をくぐれるだろうか?
確か、朝カードで検証した結果は6連敗。
そろそろ、当たりを引いてもいい頃じゃあないのか?………
そんな事を考えながら走っていたら、僕は道の窪みに足を取られて派手に転び、その勢いで崖から転がり落ちてしまったんだ。
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