第4話 都市伝説
「なぁ遥人、お前『異世界』って知ってるか?」
突然、牧村にそう訊かれた。
「ああ、『異世界』ってあれだろ?ファンタジー小説とかに出てくる………」
「そう、それ。主人公の女性が不慮の事故で亡くなるんだけど、その後異世界転生して王国のお姫様になり、王子の溺愛を受けて無事結婚していつまでも幸せに暮らしましたとさ。………みたいな」
牧村はそこまで言うと、何かを思い出したように口に掌を当てて『ヤバイ』という様な顔をした。
「ゴメン………もしかして、俺今、『地雷』踏んじゃった………?』
牧村は申し訳無さそうに謝るが、それを気にする程もう僕は弱く無かった。
「気にするなよ。もう、そういうの気にする時期はとっくに過ぎてるから。俺だって、詩織がその小説みたいに『お姫様』に異世界転生して幸せに暮らせたらいいと思ってるよ」
「そうなのか? けれど、その『お姫様』の結婚相手はお前じゃ無くて異世界の王国の王子なんだぜ?お前はそれでもいいの?」
さっき謝ってきたと思ったら、その次にはこんな意地の悪い質問してくる………
全くこいつは性格いいのか悪いのか………
「そりゃ、出来る事なら俺が………って気持ちはあるさ。だけど詩織はもう俺の手の届かない所に逝ってしまったんだ………だったら、誰でも詩織を幸せに出来る人に託すしかないよ………」
そう呟く僕の顔を、牧村は神妙な顔で暫く見つめていた。そして、納得したように頷いた。
「うん、お前は完全に立ち直ったよ!もう大丈夫だ」
『ありがとう、お前のおかげだよ』なんて、さすがにそれは照れ臭くて言えなかった。だからそれを誤魔化すように話しを先に進める。
「それで、その『異世界』がどうしたって?」
「そう、そう、ここからが本題!この間、ネットで興味深い記事を見つけてさ………」
「興味深い記事?」
牧村は再び神妙な顔を作ると、まるで怪談話でもする様にボソリ、ボソリ、と語り始めた。
* * *
「これは、ネット記事と言うよりは都市伝説に入る部類の話だから、まぁ〜信憑性に関しては受け手次第って言う感じなんだけどさ」
「それは、あまり信憑性が無いって事か?」
「そうじゃなくて、よく言うだろ?『信じるも信じないもアナタ次第』って」
「成る程ね………で、どんな都市伝説?」
「それがさ、実際に異世界を見て来た人がいるって話があるんだ!」
牧村は、スクープを獲ってきた記者のように自慢気な顔をしたが、その時僕は牧村の話に何か違和感のようなものを感じた。
「えっ、でもそれっておかしくないか?」
牧村の都市伝説が嘘か本当かと言う以前に、この話には僕の認識する異世界では説明がつかない事柄が有るような気がする………僕は最初にその疑問を牧村にぶつけた。
「だって異世界ってのは、一度死なないと行けない世界なんだろ?………その異世界見て来た人ってのは、生きたまま異世界に行ったって言うのか?」
あくまで異世界が本当に存在するとしたらだけど、大抵の文献には一度死んだ人間の次の行先として異世界というものは定義されている。その疑問に対して、牧村はこんな回答を用意していた。
「それは、『イレギュラー』だよ!」
「イレギュラー………?」
「つまり、通常は死ななければ異世界には行けないんだけど突発的にある状態になった時なんか、希に生きたまま異世界に行ける事があるらしいんだ」
「突発的っていうのは?」
「例えば、気絶して意識不明になるとか………あるいは生と死の境を彷徨うとか………お前も聞いた事あるだろ?『幽体離脱して、自分が横たわっている姿を上から眺めていた』みたいなの………」
「ああ、それ何かの本で読んだ事がある!その時に本体の自分に戻れないとその人は死んじゃうんだよな?」
「まぁ、そういう時ってのは通常とは違う『イレギュラー』が起こりやすいらしいんだ」
そんな牧村の説明で僕は納得させられた。というか都市伝説の話にいちいち疑惑をぶつけていたら、この話は成立しない………
「成る程、それでその異世界に行った人がどうしたって?」
「うん、その人が異世界へ実際に行ってまとめた内容をYouTubeで配信してるんだけどさ」
牧村は、ポケットからスマホを出すとYouTubeのアプリから検索した問題の動画を再生して、僕に見せてくれた。
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