第3話 牧村真司

その悲惨な事故から一年が経ち………二年が経ち………やがて詩織の十三回忌も過ぎた時、僕は三十五歳を迎えていた。


あれから何年が過ぎようと、僕が詩織の事を忘れるなんて日は一日だって無かった。けれども、この長い年月はまるで荒野の様に荒れていた僕の心を、ゆっくりといつの間にか穏やかなものに慣らしていってくれた。


「遥人、お前も一時はどうなっちゃうかと思ったけど、なんとか立ち直ってくれたみたいで良かったよ」


「ああ、もう大丈夫だよ。あの時は牧村おまえにもずいぶん世話になったな」



幸運な事に、僕の周りには人の心の痛みや傷を思いやる事の出来る心優しい仲間が数多くいた。僕の同級生で親友でもある『牧村真司まきむらしんじ』も、その一人だ。


牧村とは、地元の幼稚園の頃からの腐れ縁なんだけど………照れ臭くてこんな事、決して本人を目の前しては言えないが、牧村には本当に感謝している。


あの事故の後、自暴自棄になっていた僕のもとに真っ先に駆け付け、辛抱強く最後まで寄り添ってくれたのが牧村だった。


「遥人、お前今は詩織ちゃんの事考える暇なんか無い位、とにかく仕事してろ!」


余計な事を考える暇もないくらい忙しければ、僕は詩織の事を考える余裕なんて無くなるに違いない。


そう考えた牧村は、畑違いの僕の仕事の営業に入り、自ら進んで仕事を獲ってきてくれた。


「牧村、お前大丈夫なのか?お前の所だってそんなに暇な訳じゃないだろう」


「大丈夫、大丈夫。俺はお前と違って要領がいいから、このくらい屁でもねえよ」


自分だって、それなりに大変な時期だっただろうに、僕に気を使わせないようにそんな苦労は少しも顔に出す事無く、あいつはいつも明るい笑顔で僕に接してくれた………牧村のそんなさりげない優しさに、僕は何度も救われた。


最近では、その牧村と共に過ごす事が多くなって、ほとんど毎週のように休日前の夜には牧村と近くの居酒屋で飲む事が多くなった。


そんなある日の事、僕はその日もいつものように近所の居酒屋で牧村と飲んでいた。





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