【18話】隣にいたい


「ありがとうアリシア」


 二人だけになった応接室に、ルシルの声が広がる。

 

「俺の隣にいたい――そう言ってくれて、俺はものすごく嬉しかった」

「それは私も同じです」


 ルシルの言葉がどれだけ嬉しかったことか。

 

 その言葉にアリシアは、ルシルの隣にずっといたい、と強く思った。

 だからこそこそ、シーラを前にして本心を言うことができたのだ。

 

「アリシア、君に伝えたいことがある。聞いてくれないだろうか」

 

 真剣な視線を向けてきたルシルに、アリシアはコクリと頷く。

 

「君のことが好きだ。世界中の誰よりも愛している」


 ルシルの口から発せられた、まっすぐな愛の告白。

 

 その言葉は、アリシアの心にスーッと染み込んだ。

 嬉しい気持ちが、心の中心から全身へ広がっていく。

 

「ずっとしまっておこうかとも考えたが無理だ。さっきの出来事で、抑えられないくらいに君への気持ちが膨らんでしまった。こんなことを急に言われても困るだろうが、これが俺の正直な気持ちだ」

「困りなんていたしません。だって私も、ルシル様のことを愛していますから」


 ルシルの両手を握ったアリシア。

 オッドアイから溢れ出た嬉し涙が、ルシルの両手に落ちる。

 

「以前、欲しいものを教えてくれ、と言うルシル様に、私はこう言いました。欲しいものができたら言う、と。覚えていますか?」

「もちろんだ。君との会話はすべて覚えている」

「私、欲しいものが今できました」


 ルシルの美しい青色の瞳をまっすぐに見つめる。

 

「私は今、とっても幸せです。だから、この幸せがこの先もずっと続くようにしたい。それが私の欲しいものです」

「心得た。俺の全身全霊をかけて、君を幸せにし続ける」


 ルシルに抱きしめられる。

 心から流れ出す嬉しい気持ちがさらに大きくなっていくのを、アリシアは強く感じた。

 

******


 アリシアとルシルが夫婦になってから一年が過ぎた。


 共用の寝室の窓から、アリシアは青い空を見上げる。

 

「お姉様、報告したいことがあります。まずは――」


 最初に口にしたのは、生家であるフィスローグ伯爵家のことだ。

 

 フィスローグ家は、実質壊滅状態にある。

 領地をペイポル公爵家に譲ると、当主であるダートンとシーラは姿を消したのだ。

 

 風の噂によれば、二人は今、ペイポル公爵家の奴隷になっているらしい。

 噂が本当であれば、なんとも物騒な話だ。

 

「って、ごめんなさい! いきなり重い話をして、雰囲気を暗くしてしまいました!」


 チョイスを間違えた気がする。

 

 きっとリトリアは苦笑いしていることだろう。

 その顔が、容易に想像できる。

 

「楽しい話をしましょう! えっと、私の話をしますね! この前はルシル様と一緒に――」


 ルシルと過ごす毎日はキラキラ輝いていて、本当に楽しい。

 そんな日々の幸せを、弾んだ声で報告していく。

 

「お姉様。私は今、とっても幸せです。きっとそれは、お姉様が見守ってくれていたからです。だからこれからも、私のことを見守っていてください!」


 ピカッ!

 太陽の光が一瞬だけ強く光った――ような気がした。

 

(きっと、お姉様が頷いてくれたんだわ)

 

「ありがとうございます」

 

 微笑んだアリシアは、眩しい太陽に向けて深く頭を下げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

オッドアイの伯爵令嬢、姉の代わりに嫁ぐことになる~私の契約結婚相手は、青血閣下と言われている恐ろしい公爵様。でも実は、とっても優しいお方でした~ 夏芽空 @7natsume23

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ