【4話】最高の朝食
翌朝。
ベッドの上で目を覚ましたアリシアは、体を起こし軽く伸びをした。
窓から差し込んだ暖かな朝日が、部屋を明るく照らしている。
時刻を見れば、午前七時を回ったところだった。
(こんな時間に起きたのはいつぶりかしら)
フィスローグ家では、まだ暗いうちから起きて家事をするという毎日を送ってきたアリシア。
太陽が昇る時間まで寝ていたのは、本当に久しぶりだ。
コンコンコン。
扉からノック音が聞こえてきた後、メイドが部屋に入ってきた。
「奥様、おはようございます」
「おはよう」
「朝食のご用意ができました。食堂までご案内いたします」
「ありがとう。お願いするわね」
ベッドから降りたアリシアは、メイドとともに部屋を出た。
白い両扉を抜け、アリシアは食堂に入る。
そこには、ルシルの姿があった。
中央にある食卓テーブルに座って、朝食を摂っている。
食卓テーブルまで進んでいくアリシア。
ルシルの対面に立ち、「ルシル様、おはようごさいます」と言って、ペコリと頭を下げた。
「おはよう。昨日はよく眠れたか?」
「はい」
「それは良かった」
ルシルがニコリと微笑む。
温かみを感じる優しい笑顔だ。
(癒されるわね)
ぽかぽかした気分になったアリシアは、ルシルの対面の席へ腰を下ろす。
テーブルの上には、既に朝食が用意されていた。
それを、口の中へと運ぶ。
(んっ~! なんて美味しいのかしら!)
ブルーブラッド公爵家の朝食は絶品だった。
心の中で歓喜の声を上げる。
フィスローグ家で出されていた食事は、とても粗末なものだった。
そんな粗末な食事と今食べている朝食とでは、全然格が違う。
(いくらでも食べられそうだわ!)
あまりの美味しさに、食べる手が止まらない。
「気に入ったようだな」
対面のルシルから声が飛んでくる。
その声を受けてハッと我に返ったアリシアは、夢中で動かしていた食事の手を止めた。
(私ったら、なんてはしたない真似を……!)
食事にがっつくなど、令嬢としての品位を疑われるような行為だろう。
ぶわーっと、恥ずかしさがこみ上がってくる。
火傷しているかのように頬が熱い。
「ももも、申し訳ございませんでした!」
「謝る必要はないぞ。食事が美味しかったからこそ、君はそういう反応をしたのだろう?」
「……はい、その通りです。あまりにも美味しかったものですから、つい……」
「そうかそうか。シェフもさぞかし鼻が高いことだろう」
微笑んでから、ルシルは席を立った。
朝食が載っていた皿の上は、綺麗になっている。
ルシルは一足先に、朝食を食べ終えていた。
「三階の一番手前の部屋で、俺は仕事をしている。何か分からないことや困ったことがあれば、いつでも言いに来てくれていい」
そう言って、ルシルは食堂を出ていった。
(なんて心が広いお方なのかしら)
去っていくルシルの背中を見ながら、そんなことを考える。
怒られてもおかしくないことをしたのに、ルシルはいっさいそうしなかった。
それどころか、謝る必要はない、とまで言ってくれた。
人としての器が大きい。
同じ当主でも、フィスローグ伯爵家当主――実父のダートンとは大違いだ。
うんうんと頷いてから、アリシアは再び朝食を食べ始めた。
朝食を食べ終え、私室に戻ってきたアリシア。
「最高の朝食だったわ!」
ベッドにダイブ。
美味しい朝食を食べたことで、アリシアのテンションはマックスになっていた。
エネルギーは満タン。
今日一日頑張れそうだ。
「さて! この後は…………あれ? 私、この後なにをすればいいのかしら……」
この後の予定について、誰からも指示を受けていない。
エネルギーが満タンになったのはいいが、それの使い道が分からない。
「困ったわ。いったいどうすれば……あ、そうだわ!」
悩むアリシアの頭に浮かんだのは、先ほどの朝食での出来事。
「三階の一番手前の部屋で、俺は仕事をしている。何か分からないことや困ったことがあれば、いつでも言いに来てくれていい」
アリシアは現在、とても困っている。
一人で考えても解決できそうにないので、ルシルの言葉に甘えることを決めた。
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