B-side 5-3
「和音も、調査チームの方から伺っているよね。更紗が最後に受けたシナプス検査で計測されたシナプス量と、一要さんの所持していた保護装置に内蔵されたシナプスの量が一致しないと。ミクログリアも食べ残しをするそうだけど、保護装置とて完全に私からシナプスを奪い取ることはできなかったということだよ。彼は私の一番深層にある、一番大切な感情は奪えなかった」
「一番大切な感情って」
「和音への恋心のことだよ」
心臓の音が、五月蠅い。それでも思考は忙しなく働いていて、手放しに喜ぶ気にはさせてもらえない、これはシナプス密度が高いことの弊害だろうか。
「それは本当に、俺に対する感情なのだろうか。君は知らないかもしれないけれど、俺は更紗の好きな相手を知っている。更紗は、楓という男の子が好きだったはずだ」
目を泳がせ、慌てたように思案する。その様子を見て、どこか安心している自分がいる。大方見舞いに来る家族以外の人間が和音だけだったから、恋愛対象も和音なのだろうと見当をつけたのであろうが大間違いだ。
「和音だという自信はあるけど、念のため楓さんに会わせて。会ってみれば違うとわかると思う」
失敗した、と思ってももう遅い。今まで和音は、意図的に楓の話を避けてきた。未知がこのまま一生、楓のことを思い出さなければ良いとさえ考えていた。楓は更紗のシナプス回路の中の住人だ。彼は今も、あの白い立方体の中で眠っている。二度と会うことのできない人の存在を教えても、未知を戸惑わせるだけだ。ましてやそれが恋の相手だなんて残酷なこと、これ以上未知を苦しませたくはなかったのに。
「教えて。言いづらいことでも、ちゃんと」
和音の思考を知ってか知らずか、未知は和音の手を取って、大丈夫だと言いたげに力強く頷いた。
「楓というのはね、イマジナリーフレンド、すなわち更紗の空想の中だけに存在する人物だよ。だから、もう会うことはできないんだ」
悲しむと思った、涙しさえすると思った。それなのに未知は和音の言葉を聞いて、とても嬉しそうに笑った。
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