A-side 5-6

 同じ景色が見えている。それならば、白を切れないことはわかっているはずだ。

「ミクログリア関連の話は粗方終わったか」

「ああ、インフォームドコンセントの範囲で教えても問題の無さそうな部分に関しては、大方語りつくしたかな。寧ろ少し口が滑ってしまったくらいだよ」

「じゃあ改めて問う。あの白い箱、更紗のシナプスがここにある理由は何だ。俺はミクログリアの能力を持っているから、更紗のシナプスが食べられないことを知っている。更紗のシナプスが失われたのはミクログリアに食べられたからじゃない、父さんに奪われたからだ」

 大きなため息。一要は頭が痛いときにするように眉間を揉んでから、ゆっくり口を開いた。

「研究に関することだから」

「俺だって簡単に引き下がるわけにはいかない。それにここまでの話を聞いていて思ったけど、更紗のシナプスを利用したその研究とやらは、少なくとも国の指示ではないだろう。父さんの性格も考慮すると、自分一人で進めている可能性が高い」

「何故そう思う」

「だって矛盾するじゃないか。今まで百年余りの間、シナプス密度下位の人だけがミクログリアに捕食されてきたからこそ、国民は勉学に励んできたのだし、後にミクログリアとなる一類シナ生たちも被害者の努力が足りないのが悪いという虚構を信じ込むことができた。でも更紗が被害に遭ったことが世間に知れ渡ればこれらは全て覆る。一類シナ生がミクログリア被害に遭ったとなれば、政府が長年をかけて築き上げたであろう仕組みが崩壊してしまう。そんなこと、国は望んでいないはずだ」

 返答は、無い。

「もう確信しているんだよ父さん。更紗のことは、父さんの独断なんだろう。でも理由がわからない。せめてちゃんと、自分の口で説明して欲しい。国の研究でないのなら、守秘義務の範囲にも当てはまらないはずだ」

 大きく息を吐き出して一要はおもむろに立ち上がると、更紗のシナプス回路を映し出している箱を抱え上げた。

「美しいと思わないかい」

 突然の問いに、答えを思いつかない和音は無言で先を待つ。

「更紗ちゃんのシナプスは、誰よりも美しいことは言うまでもなく、他のどんな芸術作品と見比べても劣ることのない完璧な作品だ。この世界が生み出した最高傑作だと僕は感じるよ」

 何の話を始めたのだ。理解が追い付かず、ただただ聞き手にまわる他ない。

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