A-side 5-5

「まさか、その時が来たら選択を躊躇わないようにするために、ミクログリア被害を正当化するような教育を組んでいたのか……?」

「おお、流石は僕の息子、よく気が付いたね。一類シナ生のカリキュラムは意図的にシナプス密度主義的思想を育むように計画されているんだけれど、今の話でそのことに思い至れる人はなかなかいないよ」

 心底感心しているが、和音はそれどころではない。自身がミクログリアだと思い込んだまま生活していたからこそ、早い段階から世間とずれた一類シナ生の価値観の異質さに気付けていたものの、他の子どもたちは幼少期から洗脳されているようなものだ。この上、我が子を人質に捕られていたら、非人道的な判断を下してしまうのも共感はできないが理解することはできる。

「“ミクログリア導入剤”を服用した妊婦は、政府直属の機関である僕たちが斡旋したシナプス密度順位下位者のシナプスを食し、“シナプス消化補助剤”を服用することで栄養とする。この消化補助剤はミクログリアの能力を終了する効果も含有しているから、以降彼女らにはシナプスが見えなくなる」

「つまり俺はずっと、能力が発現したままの状態だったわけだね。後で消化補助剤をくれ」

「それは無理だよ。シナプスを摂取していない状態で消化補助剤なんて飲んだら、自分のシナプスが分解されてしまう可能性を否定できない。和音が他者のシナプスを無碍に捕食する気があるなら、話は別だけれど」

 そんなこと、できるはずがない。静かに首を横に振った。誰かを不幸にするくらいなら、一生ミクログリアのままでいい。

「まぁ、そう落胆しなくていいよ。その状態のままでいるデメリットなんて、スカスカ頭の人に対して猛烈に食欲がわくくらいのものさ。僕もミクログリアの能力を持っているけれど、何の健康的被害も無い」

「待て、何で父さんも“ミクログリア導入剤”を飲んだんだ」

「業務を行う上で、その方が都合がいいからだよ。機械を通さなくても、自分の目で見てシナプスを確かめられるのは非常に便利なんだ。だから、父さんにも和音と同じ景色が見えているよ、安心してくれ」

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