B-side 4-3

 皆が皆、己の中の悲しみを御し得ずにいる中で、蒼白な顔をしながらも未だ涙を一滴も零さずにいた青年が静かに立ち上がり、無言で応接室を出た。後姿を目で追っていた未知は、泣き喚いている両親にかける言葉を持たない自分を胸中で懺悔しながら、彼を追った。

「あのっ」

 ロビーの椅子に腰かけている姿を発見し声を掛ける。

「あなたは私の、お兄さんですか」

 虚を突かれた一瞬の戸惑いの後、青年はふっと優しく微笑んだ。

「違うよ。自己紹介がまだだったね、俺は幼馴染の里崎和音。ちなみに元のキミは、一人っ子だったよ」

 元のキミ、という言い方に引っ掛かりを覚える。

「和音さんは、私と更紗を別人だと思っているのですか」

「そうだよ」

 即答。何の躊躇いもなく。「どうして」そう問おうと思ったのを後方から現れた声が阻む。

「更紗、おうちに帰りましょう」

 涙でぐしゃぐしゃに崩れた顔で力なく笑う母親は、少し怖かった。それでもその傍目にもわかるほどの絶望は更紗への愛故だとわかったから、首肯する以外の選択肢を未知は思い浮かばなかった。

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